第12話 マジックバッグ、目標

「マジックバッグすげぇ~!」


 魔女の家から戻る際、平原を通りながら魔獣を斬って倒した瞬間に、マジックバッグの中に入る。


 マジックバッグはそれぞれが一品目となるため、物が一万個入る感覚。


 これを先払いしてくれた魔女――――エヴァネス様曰く、素材を分離させるとそれぞれが一つずつ判定されるから保管するだけなら、非常に効率が悪いそう。


 それにしても倒した瞬間にマジックバッグに収納されるの……めちゃくちゃ便利すぎる~! ワールドオブリバティーをやっているときの感覚に近付いた~!


 しかも、このマジックバッグ。なんと……! 防犯付き! 俺以外の人はバッグを開けることができないし、俺から半径百メートルくらい離れて持ち逃げると、強烈な感電攻撃が放たれるらしい。


 平原を突っ切りながら魔獣を倒しまくって村に戻った。




 翌日の朝。


「ベリル」


「あい~」


「これは……?」


「え? 久しぶりの大量の獲物だよ?」


「どうしてプレイル平原で現れる魔獣がこんなに大量に出てくるんだあああああ!?」


「えっと~いろいろあって、これからプレイル平原で狩りをしようかなと。ほら、マジックバッグも手に入れたからたくさん運べるから!」


「一体何がどうなったらそんなものを手に入れるんだ……俺は……ベリルを甘くみていたのかもしれない……」


 文字通り膝から崩れ落ちた父さんの目の前には魔獣が山積みになっている。


「あら……解体どうしようね。私達で出来るかしら……」


「母さん。解体ナイフをブライアンさんにお願いして、もっと良いモノを作ってもらおうよ」


「そうね。今のナイフだと剥ぐことも難しそう……でも一番の問題は私達では力が足りなくて難しいわね」


 ボアとかは肉も美味しいし、皮も使えるけど、そもそも長さは二メートルくらいあって大きいのよね。母さん達だけで解体は難しい。父さんがいるならまだ何とかなるかも知れないけど。


 魔獣だけ持ってこれたら何とかなると思ったら、今度は次の問題があるんだな……。




 ――――ということで!




「困ったら俺に聞くのやめてくれないか……」


「いいじゃん。俺達……友達だろ!」


「困ったときだけ友達言うのやめろ! ちょ、ちょっと嬉しいけどよ……」


 そう言いながら溜息を吐くグラン。


「よくわからないけどよ。人手が足りないなら人を雇えばいいんじゃねぇか?」


「人を……雇う?」


「それだけ素材を持ち帰ったら肉とか余るだろう? 肉払いで解体を手伝ってもらったらいいんじゃね? 知らんけど」


「ふむ……確かに理にかなっている。だがしかし、グランくんよ」


「お、おう?」


「……俺もそれくらいは思いついてるぞ」


「なら俺に聞くなよ!」


「いやいや、話は最後まで聞いてくれ。思い付いたけど、それをやってないんだ。何でかわかるか?」


「……どうしてなんだよ」


「ふっ……自慢じゃないが、俺が誰かと話せると思うか?」


「あ…………」


 やめろ! そんなゴミを見るような目はやめてくれ! 俺だって……頑張ってるんだ!


「グラン! 助けてくれ! お前にだってちゃんと手数料は支払うからよ!」


「お前のおじさんに頼めばいいじゃん! 何で俺なんだよ!」


「こういうの上手そうだし。あと普段の鍛冶屋は暇そうだし」


「暇言うな! 確かに大仕事はないけどよ……はあ。父さん! 俺、ちょっと出かけてくる!」


 ブライアンさんは無表情のまま手を軽く上げて答える。


 さっそくグランが工房から出かけたので、全て彼に投げておくことにする。


「ブライアンさん。エヴァネス様との取引が上手くいきました。ありがとうございます」


「そうか。ベリルくんなら魔女様とも上手くやれると思った。良かったな」


「はい! おかげさまでこれまで以上に順調に狩りができるので、頑張ります!」


 ブライアンさんにお礼も言えたし、ついでに(?)グランに仕事を丸投げもできたので、家に戻り母さんには「グランが全部上手くやってくれるらしいから、後は任せていいよ!」と言い残して、俺は今日もプレイル平原に向かった。




 三日後。


 今日は狩りの前に魔女の家を訪れた。


「わあ~! 今日の仕事、おっわり~! えへへ~!」


「…………」


「…………」


「…………」


「ひい⁉ どうしてこんなところにデスが!?」


「いや、そのくだりは前回やったから」


 リサはあたふたしながら右に走ったり、左に走ったりしながら、最終的には家に逃げるように入っていった。


 俺もコミュニケーション能力はないと自負しているが、こいつも大概だぜ。


 まあ、俺の目的は魔女おばあちゃん(見た目は二十歳)だし、別にいいけど。


「エヴァネス様~こんにちは~」


「ベリルくん。いらっしゃい。リサちゃんが慌ててたから何事かと思ったらね。さあ、お茶を淹れるからそこで待っていて」


「は~い」


 前回はマジックバッグのインパクトが強すぎて家の中をよく見てなかったが……掃除が行き届いていて、ゴミ一つ落ちてない。


 それと見たこともない道具があっちこっちに並んでいる。


 “ワールドオブリバティー”と酷似世界というだけあって、魔道具はどれも前世の現代道具に似ている。冷蔵庫やポットに中にはルンバみたいなのが動いている。


 自由度の高さで田舎暮らしから現代暮らしまでできて、いろんな景色が楽しめるゲームが売りなだけあって、何でもありな世界だったが……この世界もそうみたいだな。


 やっぱりここって……“ワールドオブリバティー”世界の中で間違いないかな?


「お待たせ」


「ありがとうございます。いただきます」


 前回と同じお茶は相変わらず見た目は最悪だけど、めちゃくちゃ美味しい。


「エヴァネス様! マジックバッグ、本当にすごいです! とても便利で狩りも順調にできるようになりました!」


「それは良かったわ」


「前回エヴァネス様がおっしゃっていた買い取ってくれる素材ってどんなものが欲しいんですか?」


「珍しい素材が手に入ったら、まずは持って来てちょうだい。ここら辺で欲しいのは……エンシェントロックリザードの魔石かしらね。見掛け倒しで弱いけど、狩りに行くのもめんどうなくらい遠いもの」


「エヴァネス様って……魔石好きですね」


「うふふ。魔道具を作るのが趣味みたいなものだからね。魔石はいくらあっても困らないわ。作り過ぎて余ってる魔道具と交換してあげるから、ボス魔獣の魔石は全部持って来てちょうだい」


「はい!」


 エヴァネス様にもお礼を言えたし、次の目標も見つかった。


 ちなみにリサは最後までエヴァネス様の後ろから俺をチラ見してくるだけで、一言も話さなかった。




 それから月日が経過し、一か月が経った。




「何だか嫌な予感がする! 今日はみんな解散!」


 俺の声に集まっていた解体員達が不思議そうな表情をする。


 解体のために出しておいた魔獣や解体用武器も全部マジックバッグに入れて、透明モードにしておいた。


 これもこのマジックバッグが優れている点の一つ。普通の人は見極めることも難しい。


 まあ、透明モードだとバッグを開けられないし、自動収集機能も停止するから不便だけども。


 みんな解散して今日はのんびり休息にしていると、案の定、俺の不安が的中した。


 村に三人の騎士がホースに跨りやってきた。


「あれ? 騎士さん、今日はキングブラックウルフを退治しに来てくれたんですね!」


「…………そうじゃない。お前の監視のためだ」


 領主め……。


「ちゃんと獲物は申告しているな?」


「もちろんですよ~村長のところに記載しています。ちゃんとうちが食べる分・・・・だけラットとセイバードを狩りました!」


「お前くらい強いやつがその程度しか……?」


「いやだな~騎士さん。俺はまだ六歳の小さな子供ですよ? それより騎士さん達は俺よりも強いんですから、早くキングブラックウルフを退治してもらえませんか?」


「そのために近くを探索している!」


 ……毎日村周辺を走り回ってるのに、騎士の一人も見ていないから、これは嘘だな。


「そっか~ならすぐに倒してくれるんですね! 楽しみだな~! まさか騎士様達みたいに強い人達が俺みたいな小さな子供から搾取するためだけに、こんな辺境の田舎村に来たとは思えませんもん!」


「くっ……」


 騎士は村長宅にあった台帳を確認して逃げるように去っていった。


 領主には期待していなかったけど……平民を守る騎士は期待していたが、どうやらそれもないらしい。

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