第10話 困難、デス

 武器が完成したことで、今日からは村の周りの森ではなく、経験値を稼ぐための狩場にやってきた。


 村から東に真っすぐ進んだところにある岩場。


 森を抜けるとポツンと現れる岩場には、四つ足で歩くロックリザードが住んでいる。


 ロックリザードは気性も穏やかで岩場から外には出ないので村の被害にはならない。それと、ロックリザードの素材って岩みたいに硬くて加工ができないし、岩みたいな皮を剥ぐのも難しくて肉も食べれない。つまり、素材として一切価値がない。


 たくさん狩っても素材がもったいないなんて思わないはずだからここを選んだ。


 さっそく岩場の向こうをドスンドスンと歩いているロックリザードを見つけた。


 全長二メートルくらいある大型トカゲで、全身が岩みたいにできてて、まるで歩く岩だ。


 それはまんま過ぎるか。


 ひとまず先制攻撃をしながら通り抜けて様子見をするか。


 一気に走り抜けて飛び越えながら俺の新しい武器――――ブラックサイズで斬りつける。名前は全身が黒いからそう名付けた。


 岩を斬ったら普通は反動があるはずなのに、まるで豆腐を斬るかのごとく、スルっと抜けたブラックサイズによって、ロックリザードが前後で半分に分かれた。


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ロックリザードを倒しました。

経験値150を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

レベル差によるボーナスにより、追加経験値450を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

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 うおおおお! ブラックウルフより経験値美味しいんだけど! しかもちゃんとレベル差ボーナスも入ってる!


 一頭につき、獲得経験値は60。


 今の俺にとってはあまりにもありがたい量だ。しかも、一撃で倒せるしな。


 それからは次々とブラックサイズでロックリザードを斬って斬って、斬りまくった。




 太陽が西に沈みそうになった頃。


 急いで岩場から村に向かいながら、今日の肉を調達するために魔獣を狩りながら進む。


 台車はないので、狩った獲物は持って来た紐に括り付けて、背中に背負って走る。


 家に着く頃にはいつもよりは少ないが、そこそこ集まった。


 ちなみに、今日さっそくレベルが1上がったので、獲物を持ちやすいように力に全ぶっぱしておいた。




 その日の夕方。


 俺は事前に解体してもらった肉を持って、ブライアンさんの工房を訪れた。


「よお。元気にしてるか~グラン~」


「……お前。気を許したらすげぇフレンドリーになるんだな」


「おう。よく言われるよ」


「誰にだよ!」


 あはは! グランって関西人並みの鋭いツッコミが癖になるな!


「これ、差し入れ」


「は? 肉?」


「おう。俺が狩ってきた獲物を母さんが解体してくれているんだ。余ってるからやるよ」


「お、おう……まじでもらっていいのか?」


「当然だ。協力者にはそれなりにやるさ。それよりさ、一つ相談があるんだ」


「相談? なんだ?」


「お前が作ってくれたブラックサイズのおかげで東の岩場に行けるようになったんだけどよ」


「まさかロックリザードを倒してるのか!?」


 驚きすぎてその場で小さく飛び上がるグラン。


「ああ。ブラックサイズの切れ味が良すぎて、簡単に倒せるんだ。あと刃こぼれ一つないよ」


「すげぇな……」


「お前が作ってくれたんだろう?」


「そ、それはそうだが……武器って使い手に大きく左右されるからよ。お前の使い方が上手いんだよ」


 こやつめ……褒める上手いじゃんか。


「それはいいとして。相談事なんだけどよ。今まで獲物を運ぶために台車を引いて回ったけど、これから岩場に行くのに走っていくから台車の代わりになるものないかなと思って。何かいい方法はないか?」


「あ~。獲物を持ってくる方法って難しいよな……それは俺もわからねぇや。父さんにも聞いてみるか」


 そのまま工房から裏に繋がってる家に入っていくと、ブライアンさんが静かにお茶を飲んでいた。


「父さん。これ、ベリルからのおすそ分けだってさ」


「ん? 肉か。ありがとう」


「いえいえ」


「父さん。ベリルから狩った獲物を持ってくる方法がないかと言われたけど、何かいい方法ないか?」


「獲物を持ってくる方法か……あるにはあるな」


「あるのか!?」


「あるんですか!?」


 グランと見事に声が被った。


「魔道具【マジックバッグ】。空間収納が付与された魔道具で、見た目以上に大量の荷物が入るものがある」


「マジックバッグ!」


 まじであったのか! マジックバッグ!


「ただ……かなり貴重なモノでな。それに見た目以上に入るというだけで入る容量によっては国宝級になるからな。ちなみに村にはないぞ」


「ないんだ……くっ……」


「手に入れる方法がないわけではない」


「本当ですか!?」


「絶対ではないが……ここから北に進んだところにあるオルリファスト山は知っているな? その上には――――魔女様が住んでおられる。彼女は魔道具を作れるんだ。そこに行って彼女の機嫌が良ければ売ってもらえるかも知れない。まあ……高いだろうけど」


「お金は……ないから、まずあるかないかだけでも確認に行ってみます。ブライアンさん。教えてくれてありがとうございます!」


「ああ。ベリルくんもグランもこの事は他言無用で頼むぞ」


「はい!」




 翌日。


 俺はさっそく北に向かって走り続けた。


 一応俺の走るスピードなら往復一日で帰れる距離だし、魔女様のことは秘密ってことで両親には言っていない。


 森から段々と木々が減っていき、平原が現れた。


 平原には不思議な植物が生えており、遠くからでも強そうな魔獣が姿を現した。


 まあ、どれもゲームで倒してるから知ってる魔獣ばかりだけども。


 ここで狩りができれば、肉や素材も手に入っていいんだが……。


 魔獣とぶつからないようにしながら、真っすぐ北に向かって走る。


 向かう道中で母さんが作ってくれた昼飯を食べて、また走り出すと目の前に大きな山が現れた。


 転生して初めての登山は、意外と大変でもなくて、高い俊敏に任せてひょいひょいと飛び跳ねて岩場を上がったり、木から木で飛び移りながら移動していく。


 山を段々登っていくと人の気配を感知したのでそちらに向かう。


 そこには――――こじんまりとした家が一つと、周りを不思議な畑が囲っており、後ろには綺麗で小さな泉があった。


 さらに周りには魔獣ではない不思議な生物も飛んでいて、まるでおとぎ話に出てくるような世界が広がっていた。


 “ワールドオブリバティー”でもこんな場所ってあったっけ……?


 木から降りてゆっくり家に近付いていくと――――畑からひょっこりと顔を出す女の子がいた。


「わあ~! 今日の仕事、おっわり~! えへへ~!」


 長いピンク色の髪が非常に目立つ。しかも声も可愛い。年齢は俺と同年齢くらいか……?


 すると振り向いた彼女と目が合った。


「…………」


「…………」


「ひい⁉ どうしてこんなところにデスが!? お、おばあちゃん~!」


 ん? デス……?


 彼女の叫び声に、家の扉が空くと、一人の若い女性が慌てた表情で出て来た。


「おばあちゃん! デスが侵入してるの!」


「本当だわ! こんなところにデスが現れるなんて……どうしてっ! そんなことよりも、今は対処しないと」


 何か魔法を放とうとしたので、俺は急いで両手を上げた。


「待ってください! 俺は人です! ほら、無害な男の子ですよ!」


「「えっ」」


「…………これは俺の武器なだけで、怪しい人じゃないんです」


「怪しい人は自分が怪しいとは言わないけど?」


「それはそうですけど……えっと、ここから西に行ったところにあるポロポコ村のブライアンさんから教えてもらって、ここに魔女様が住んでるって言われて来たんです」


「ブライアンから……? それは嘘ではないみたいね。いいわ。その大鎌をそこに置いたままこちらにいらっしゃい。他の人はここに入れたりはしないはずだから」


「わかりました」


 その場にブラックサイズを突き刺して、言われた通りに女性に従って家に入る。


 何か恐ろしいものでも見るかのように、女の子は女性の足にしがみつき、俺をちらちらと見つめていた。

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