第9話 武器
狩りに出かけるようになって、うちの仕事が変わった。
畑は父さんが主にやってくれて、俺が狩って来た獲物は、母さん、弟、妹が解体をする係になってくれた。
弟と妹から志願してせっせと解体している姿に、兄ちゃんとしてはちょっと複雑な気持ちになったが、ソフィアが満面の笑みを浮かべて「兄ちゃんが狩ってくれたお肉美味しいから~嬉しい~」って言ってくれて、素直に応援することにした。
それに実は農夫よりも解体屋の方が儲けがいい。その一番の理由は、やはり税金。農夫は最低率の八割。解体屋はずっと少ないから結果的に収入が大きくなるのだ。
まだ二人の職能は教えてもらってないからどうかはわからないけど、父さんと母さんの子だし……ほぼ農夫で決定だと思う。
農夫と農夫の子はほぼ農夫と相場が決まっているとかなんとか。
しかし農夫でも解体技術がよくなれば、農夫仕事を辞めて解体屋になることも可能だという。
このまま母さんも解体屋になってくれたら……納める税金が安くなって生きやすくなるから。
それ以上に俺が狩りまくれば問題ないが! 八割なんて吹き飛ばしてやるぜ!
今日も狩りに行こうとすると、珍しい男がやってきた。
体の色んなところに包帯を巻いているグランくんだ。
「よお。ベリル。待たせたな」
約二か月ぶりの再会だが、何の音沙汰もなくて素材を持ち逃げしたのかな~なんて思っていたけど、ケガして動けなかったのか。
「そのケガは?」
「気にしなくていい。それよりも武器だよ。お前の。すげぇの作れたから来てくれ。まだ一年目だが……一生こんな武器は作れないって思えるすごいやつが出来たからよ!」
ん? そのケガでも武器を作っていたのか……?
グランを追いかけて、ブライアンさんの工房にやってきた。
工房の奥は、作業が終わってもサウナにいるかのような熱さが広がっている。
中央にある広いテーブルの上には、黒一色の大鎌が置かれていた。
「待たせた! これが今回作った鎌だぜ。お前があのでっけぇ奴と戦っていたときの大鎌に似せて作ったぜ! ただ……ちょっと大きくなったけど」
それはそう。だって、大鎌ってサイズは大体これくらいだから。
恐らくだが、鍛冶もスキルが必要で、大鎌と分類されるものは全部この大きさになるはず。
俺の草刈り用の鎌が小さかった理由は、あれは厳密に言えば、片手鎌だからあのサイズで、父さん達が使うような大きいのは片手大鎌、両手で使う大鎌があるからだ。それに比べて戦闘用の大鎌――――通称“サイズ”と呼ばれているものは両手大鎌を指し、必ずこういうサイズだ。
「これをグランが作ったのか……?」
「ああ! 父さんにも手伝ってもらったけど……でも全力で作らせてもらった!」
「まさかその傷……鍛冶で?」
「気にすんな。これは俺が未熟だからだ。それに……初めて熱中してしまったんだ。痛くも痒くもない」
……こんなに頑張ってくれていたとは知らずに、冗談とはいえ、俺は……素材を持ち逃げしたとか考えていたんだよな。
しかも、相手は前世の年齢からすると遥かに年下……。自分の行いが少し恥ずかしくなる。
「早く手に取ってみてくれよ!」
「お、おう……」
背中を押されてテーブルの正面に立つ。
外からの光を付けて、黒い刃がキラリと光る。
最初に見たときに思ったのは――――美しい。
“ワールドオブリバティー”でも色んなサイズを使ってきた。
当然、店では売ってないし、鍛冶師も作ってくれないし(そもそも知り合いの鍛冶師がいなかったから)、俺が大鎌を手に入れる方法はダンジョンをクリアして、報酬で持っていた武器と同種武器がドロップすることを利用したレア品狙いでしか取れなかった。
実際、作ったのとドロップしたのとどっちが強いかというと、“ワールドオブリバティー”に限っていえば、作った武器の方が遥かに強い。
ドロップ品でも最上級レア品となるとかなり強力ではあるが、製作でたまに出来る最上級レア品の方が、付属効果が強かったりする。
手を伸ばして刃も
すぐにサイズから禍々しいオーラが立ち上る。
もう見た目だけなら呪われた武器だよこれ。
「すげぇ……武器が……喜んでる……」
後ろから呟くグランの声が聞こえた。
武器が喜んでいるのか俺にはわからないけど、すごく手に馴染むし、今すぐにでも振り回して魔獣を倒してみたい。
けっして、誰かをヤリたいわけではない。けっして。
「すげぇ……こんなすごい大鎌が作れるなんて、びっくりした。全然期待してなかったのに」
「期待してないは余計だ! その……ベリル。その……あのときは本当に悪かった」
「……三回も謝ってくれたし、もういいよ。正直、言われないと覚えていないくらい気にしてないから」
「……そうか」
「…………」
「…………」
「でも、ちょっとだけ……この村にも中々やるなと思う子供ができたよ」
「いや、お前だって子供じゃん」
「ほら、俺って不思議な力があるでしょう? みんなはのほほんと生きているように思えてたから」
「……お前の言ってることはよくわからんけど、みんな農夫になる前はのんびり生きて欲しいって父さん達が言ってた。たぶんそれのせいじゃないのか?」
「きっとそうだな。だから――――見直したよ。グラン。うちの村にブライアンさん以外にこんなすげぇ鍛冶師がいるとは思わなかった」
「っ……あ、ああ……」
「お、おい、泣くなよ」
「くそ……泣きたくて泣いてるんじゃねぇつうの……それより、俺から一つだけ頼みがある」
「頼み? なんだ?」
「……またあの大きい狼がやってくるかも知れない。そのとき……また村を守ってくれ。頼む」
「そのために打ってくれたのか……?」
「それだけじゃないけど、お前じゃないとあんな化け物に勝てる人なんていないから。だから俺に出来る事ならこれから何でも言ってくれ。力になるからよ」
「……わかった。じゃあ、契約成立ってことで」
俺が右手を差し出すと、ちょっと驚いたグランは、すぐに凛々しい表情で握り返した。
「おう。契約成立だ」
居ても立っても居られなくて、すぐに村を出て魔獣を探す。
丁度ラット三匹の群れがいたので、試し斬りをしてみる。
それにしても……このサイズ、切れ味すごそうだな。しかもこの大きさだからか、グランは相当重いと言っていたけど、鎌使いになった俺には見掛け倒しの玩具のごとく軽く持てる。これも鎌使いの特徴の一つ。持つ方は非常に軽いのに、実際の重量は相当重い。
久しぶりに上がった俊敏+50のおかげで体がより軽くなり、ラット達に一気に近付いてサイズを横に薙ぎ払う。
ヒュッと風を斬る音と共に、ラット達が上下に分かれ、しまいには周りにあった木々までもが倒れてしまった。
「うわあああああああ! 切れ味良すぎて全部斬っちゃったああああああ!」
俺の叫び声の後に次々と倒れる木の音が森に響き渡った。
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