第5話 初めての戦い、レベルアップ
初めて魔獣と対峙して感じる高揚感に胸が高鳴り、ブラックウルフ四頭から放たれる殺気に体が武者震いする。
これはゲームでも夢でもない
初めての戦いということもあり、少しはワクワクしていた自分が情けない。
相手は自分よりも遥かに恐ろしい存在のはずなのに冷静に考えられるのも、もしかしたらもう一つの称号【魔王と呼ばれていた者】のおかげなのかも知れないな。
“ワールドオブリバティー”での戦いの基本が技なのは確かだ。だが、それよりも重要視されているのが――――いわゆるプレイヤースキル。つまり、体の動かし方だ。
相手がどんな強い攻撃をしようとも、当たらなければどうってことはない。中には必中技もあったりはするが。
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【鎌を持つ者】
鎌を装着及び所持していると効果が発動する。
・俊敏+50
・抵抗+50
・運+50
・鎌攻撃ダメージ量上昇+50%
・強制裂傷付与(小)
・鎌耐久値消費減
・周囲気配探知(中)
・威圧(小)
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【レベル】1
【 力 】1
【俊 敏】1+50
【器 用】1
【頑 丈】1
【魔 力】1
【抵 抗】1+50
【 運 】1+50
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俊敏が50も上昇しているって……いわば、レベル20くらいになっているようなものだ。
「グルゥゥゥゥゥ」
「どうした? こんな子供一人倒せないのか? 犬っころども!」
俺の挑発に乗ったかは定かではないが、ブラックウルフが一斉に跳びかかって来た。
一度息を吸い込み、鎌を構える。
世界の流れがゆっくりになったような感覚に陥るくらいには――――俺の動きが速くなった。
一頭目の黒い狼をすれすれで避けながら鎌で斬りつける。
与えたダメージ自体は大したものではない。だって、ダメージに直結する力自体は1な上に、手にしているのは草刈り用の鎌だから。
――――だが。
斬りつけられた黒い狼の傷が、少し紅蓮色に光る。
鎌使いが最強である所以の一つがこの力だ。
【強制裂傷付与(小)】。
傷口から黒い狼の赤い血が流れ続ける。
一頭目と一緒に飛んできた残り三頭の黒い狼も斬りつける。
俊敏が51もあれば、黒い狼の攻撃が止まってるように見えるな。
ブラックウルフは一旦様子を見ながら今度は俺を囲むように散開する。
こいつら……自分達が危険状態であることも理解できんのか!
狼達が一斉に飛びついてくる。
「技、サイズスイング」
一瞬で俺の周りを鎌が一回転する。
おお……体が一緒に動く系の技はこういう感じになるんだな……!
いや、感心してる場合か! 今は戦いに集中だ。
ブラックウルフの切りつけを避けながら距離を取る。
全身が裂傷まみれになって、とめどなく血が流れていて、何だか黒から赤い狼さんになっているな。
またこちらに飛んで来ようとしたブラックウルフ達がその場で倒れて、悲痛な顔で俺を見上げる。
こう見るとただの大型犬にも見えるが……こいつらは人を襲う魔獣。ここで狩っておかなければ被害者が増えるだけだ。
罪悪感を全く覚えないってことは、魔獣というのは動物と明らかに違う存在で、この世界では人類の敵として認定されているんだろうな。それか称号のせいか。
俺は草刈り用の鎌を振り下ろして、地面に伏しているブラックウルフにとどめを刺した。
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ブラックウルフ(子分)を倒しました。
経験値100を獲得しました。
称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。
レベル差によるボーナスにより、追加経験値300を獲得しました。
称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。
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経験値ウィンドウか。
って、獲得経験値下がるのはわかってるから、大事な事なので二回表示しました的なノリはやめてくれよ。
一頭で獲得経験値40か……。四頭で160。
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レベルが1から2に上昇しました。
ステータスポイントを3獲得しました。
称号【転生者】により獲得ステータスポイントが10倍になります。
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うわあ……これってさ。レベル1上げると、レベル10上がるのと同じってことだよな。一体どこのチート称号だよ。スキルが無条件で進化するのも大概ヤバいが、これもヤバいな。
今はありがたく恩恵にあずからせてもらおう。
力に10、俊敏に10、器用に10を振りながら、俺は急ぎ足で本隊がいる方向で走った。
俊敏が61になると、1だった頃と比べて走る速度が二倍近く速くなった。
50を超えた当たりから速度上昇はあまり感じなくなるが、それでも高ければ高い程に速く動けるし、鎌使いの技は基本的に俊敏依存で威力が上昇するから、俊敏を最優先で上げた方がいい。
力と器用も一緒に上げた理由としては、どちらも最低限の30を確保しておけば、いろいろ便利になるから。
できれば抵抗も上げておきたいし、せっかくこれだけステータスポイントがたくさんもらえるから、運も100に上げたい。クリティカルヒット率が上がるのはかなり強力だから。
走った先の丘の上には、黒い狼の群れが見えた。
ざっと三十頭は居る。
こんなにたくさんの狼を従えるとなると、レイドボス級か? となると、倒せるかはわからないが……ここは裂傷の力を信じて頑張らないと。
村の方は何とか大人達が食い止めているようだ。
父さんも母さんも無事だといいんだが……。
一度呼吸を整えて、俺は丘の上に向かって全速力で走った。息が上がる感覚もだいぶ減ったおかげで、一気に駆け抜ける。
「ワオォォォォォン~!」
俺を捕捉したからか、ひときわ大きいブラックウルフが咆哮を上げる。
これで村にいる狼達もこちらに戻って来てくれると助かるんだが。
俺に向かってブラックウルフが一斉に飛び出してくる。
本来なら恐怖するはずなのに、むしろ今の俺は――――ワクワクしている!
“ワールドオブリバティー”でひたすら生産職をして、鎌使いになってからはひたすら魔獣を狩り続けた。いつしか俺は――――戦いにこそ楽しさを見出していたからな!
最初の狼を飛び越えながら一回転しながら斬りつける。
「お前らなんか……」
次の狼は足を素早く斬りつけて、ステップで相手の攻撃を避ける。
「白銀の英雄と……」
前方の左右から飛んできた狼は間に飛び込みながら、技【サイズスイング】を使って斬る。
「比べて!」
噛みつこうとくる四頭の黒い狼を自分でも驚く不思議なステップを踏みながら斬りつけながら先に進む。
「弱すぎるんだよ!」
何年も俺に挑み続けた白銀の英雄シレンさん。あの人も仲間も本当に強かった。
彼らも隠しスキルを進化させ、いろんなダンジョンをクリアしたと聞いている。
それでも……! 俺はそんな彼らにすら負けなかった!
父さん達を守れるなら、今の俺は誰だって倒してみせる!
無我夢中になってブラックウルフを倒しながら、経験値を獲得していき、ブラックウルフのボスにたどり着く頃にはレベルが3に上昇していた。
今の俺は力が10もあれば十分だから、俊敏を81に、器用を21に上昇させた。
そして――――巨大な黒い狼の前に立つ。
「……でけぇ」
思わず口に出てしまう相手の黒い狼は、鋭い眼光で俺を見下ろす。
全長三メートルくらいあるんじゃないか? こいつ……本当にブラックウルフか?
大きさからして、レイドボスと呼ばれるプレイヤー全員で挑む魔獣に違いない。
俺は人が群れるところには行かないようにしていたから、レイドボス戦なんて一度も参加したことがない。
サービス終盤でさえもレイドボス戦だけは人がいたな。一日一回とかだったし、時間も決められているくらいだったから、ソロで挑むこともできなかった。
それが……こんな形で挑むことになるとはな。
「グルアアアアアアアアア!」
凄まじい咆哮だ。だが……俺には効かん!
巨大黒狼との戦いが始まった。
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