一夜明けて

ヴー…ヴー…

 スマホのバイブで目覚める。

 時計を見ると8:00だ。前回の夜は3時まで起きていたので、5時間しか寝れていない。おそらくこれからもずっと同じサイクルになるだろうから、アラームを少し遅めにしないと毎日寝不足になってしまう。

 それにしても、スマホメーカーの企業努力は凄いものでアラームだろうが着信だろうが、ちゃんと寝ている人間をたたきおこす優秀な音だと思っていたのだが、僕以外はみんな寝息をたてたままだ。みんな疲れているんだろう。


まずはモーニングルーティンとして、柴田にメールを一本入れておく。とりあえず、あの時間にスマホ両手持ちして注意力散漫にならなければいいのだ。ゲリラライブの話をいち早くメールを入れて、余裕をもって駅に行って座るように伝えておけばいいのだ。


あとは、一応、ネットニュースをざっと眺めてみる。一応、歴史の改変、つまり、プログラムのパラメータをいじってから6時間経っているのだ、世界のどこかで何か変化が起こっていてもおかしくはない。人類が生き残るかどうかの瀬戸際に立っているというのに、世界では人間同士で戦争をしたり、どうでもいい芸能人のスキャンダルで盛り上がっていたり、今夜の花火大会のチケットの転売問題が発生していたり、本当に何をやっているんだろうか……。いや、さっきアイドルのゲリラライブに行くために電車に乗ろうとしているやつの命を救ったところなので、世の中そもそもどうでもいいことでできているとあきらめなければいけないのかもしれない。

ざっと見た感じでは、どこかで隕石の墜落の兆候が観測されたとか、地震が発生したとか、今回変化するであろう事象に関するニュースは見られなかった。やはり、1万分の1%にも満たないような変化では実世界には影響を及ぼさないのかもしれない。


「お、横浜の花火イベントじゃん。」

後ろから急に高岡の声が聞こえた。

「うわ、びっくりした。起きてたのかよ。スマホ覗くなよ。」

「いや、一人で先に起きてスマホ見てるから、なんか変なサイトでも見てるのかなー。と思って。その花火、今年からドローンショーと組み合わされるんだよな。俺もカラオケなかったら場所取りに行ってたかもしれんな。」

「あー、そういえば、花火と連携がどうのこうのって、柴田が言ってたわ。」

「そうそう。なんかすごいらしいぞ。ドローンが綺麗に見えるようにあの辺一帯一斉に電気消すらしいから、めっちゃ綺麗に見えるんじゃないか?」

「あ、いや、でも、その花火大会中止になるんだってさ。システムの連携がうまくいかないとかなんとかで。」

「そうなのか?そんなのニュースに出てなかったけど。」

「いや、前々回くらいの今日の夕方に、それに行く予定だった柴田と会話したんだよ。おそらく、夕方前には中止のニュースが出るんじゃないかな。」

「マジか。そのシステム、俺が作ったシステムも使われてるんじゃなかったかな……。何か言われないといいけど。でも、前回の夜に何も連絡が来ていなかったということは、俺の責任は問われていないということだろうな。よかったよかった。」

「よかったのかなぁ?現実に花火大会は中止になっちゃってるけど。」

「まあ、確かにそうかもな。」


そんな話をしていたら、気が付いたらみんな起きてきていた。

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