全員での挑戦#1

「結論を言う。」

高岡はみんなを集めて言った。

「プログラムを解析しきって未来を変えるのは無理だと思う。」


「なんだと?」

「そんなバカな…。」

「まだ始まったばっかりなのに?」

「なんでそんなに簡単にあきらめるんだ!」


みんなの驚きの声が計算室に響いた。


「いや、ちょっと待って。諦めると言ったわけじゃない。よく聞いてくれ。」


高岡は画面の方を振り返りながら言った。


「これがここまでで分かったこのシステムの全体像だ。世界中32の拠点に散らばった分散型システムと、12個の重力場制御装置が繋がっている。しかも、どうやらここに登場しないけど裏で動いている分散処理系の端末が無数にあるみたいだ。なので、さっきの32という数字も増えるかもしれない。そして、今開いたいくつかのシステムを見る限り、それぞれのシステムに数千のプログラムが入っていて、1個1個が1万行から50万行もあるみたいだ。

しかも、一部はおそらくモデルか何かしらの計算結果から自動生成されてるっぽくて、ここに関してはどんな感じで読み始めればいいかも正直わかんない。

つまり、まとめると、敵が多すぎて人間一人の人生の時間の中ではこれを解析しきるのは無理だ、ってことだ。」

「いやいや、大変なのはわかってたけど、読み切れないから無理って、そんな残念なことは無いでしょ。」

「そうですよ。昨日は夜遅くまでみんなでなんとかしようって言ってたじゃないですか。」


「だーかーらー、話を最後まで聞いてくれ。

今回分かったのは、俺一人とか、ここのメンバーだけで全部理解するのは無理って言っただけで……」


「だから、"解析しきって"、と言ったんだな。」

黙って聞いていた穂高が口を開いた。

「このシステムに隠されている世界を救うための方程式を見つけ出して、それを"解析的に解く"ことが無理だってことだな。」


「そうそう。やっとわかってくれた。」

「じゃあ、つまり、"数値的に解く"ってことか?」


穂高は、父の書類をずっと読んでいた。このシステムの本質的な問題は何かを見極めるために。


「ずっと父さんのメモやこれまでのメールを見ていたけど、これは関係する人、必要な技術領域が広すぎて、数人のチームでなんとかできるようなものではないだろうなって薄々、というかちゃんと気が付いていたんだ。

幸い、ここには、実験する対象と、人類滅亡の確率を計算するもの、つまり評価関数と、数千回はありそうな試行回数が全部揃っている。だから、数値的に解ける可能性が残されているんだな。」

「そうそう。だから、今から俺は俺の勘で一番それっぽそうなところをいじる。そのうえで、人類滅亡の確率がどれくらい変わるかを確認する。これを繰り返して、確率をゼロに近づけていく。」


「そんなこと言ったって、これまで100しか表示したことの無い計算結果から数値的な分析なんてできるのか?」


「そう、そう思ったから、確率演算プログラムのほうも少しいじっておいた。途中の計算結果を出力するようにしたのと、最終計算結果も、内部で持っているdouble型そのまま出せるようにした。だから、文字通り0.00000000000001%でも変われば、分析はできるはずだ。ちなみに、現時点での計算結果は、99.99999999999989%だそうだ。」


「なるほど。じゃあ、実験自体はできそうってことだな。」穂高は言った。


「人類の未来をかけてる挑戦を実験だなんて……。」

「そうだよ。もっと真剣に……。」


「いや、真面目だよ。人類は数えきれない実験試行と考察を繰り返して今に至るんだ。この挑戦も、人類の存亡をかけた実験だった、ってことが分かったってことなんだよ。」


「そういうこと。だから、これは長期戦になるけど、もの凄く広い意味では道が見えた。みんな頑張ろう。」

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