専門外からの分析
木村は、高岡に呼ばれた時は内心どうしたものかと悩んでいた。というのも、木村は4年生になって研究室に所属するまでプログラムなんて授業でちょっといじる以外には触ったことが無かった。つまり1カ月くらいしか経験が無いということだ。
しかも先輩が作ったり世界中の研究者が過去に作って公開されているコードを読んでいじっては走らなくてストレス溜まってポテチに手を出すのを繰り返す、というのが9割だったから、キーボードを触っていた期間なんて多分10時間も無いんじゃないだろうか……。
ただ、蓋を開けてみたら心配は吹き飛んでいた。連日深夜までの研究室生活は、木村の"他人の書いたコード読み解く才能"を開花させていた。
「ここにこの変数名が出て来るってことは、きっと別のところで同じ内容でSI単位系じゃない変数が出てくるに違いない。」
「このコメントアウトは、多分こう言いたいんだと思う。」
「アメリカ人が書いてるってことはここはポンドとフィートで話が進んでるはず。」
他人が書いたコードの集合体で走っているプログラムを見るのには独特のスキルが必要なのだ。大体、圧力の話をポンド/スクエアフィートで書くのは本当にやめてほしい。単位変換したやつを単位変換したやつの2乗で割らなければいけないとか、ストレス以外の何物でもない。コンピュータで演算するにしたって、量子化誤差を減らすためにはかなりの桁数まで計算しないといけないわけだし……。
とにかく、高岡が読み進めていって引っかかるところの解読で、木村の特殊スキルは光りまくっていた。木村は、ひょっとして高岡と自分のコンビは最強なんじゃないかと思っていた。正直、高岡と勉強の話なんてしたことが無いし、得意分野も全く違うのだが、だからこそコンビとして力を補い合えるのだと思った。しかも、たまたまだが、今年のGWは世間では連休中とはいえ、連休後に控えている学会論文の提出期限に向けて先輩たちが研究室に勢揃いしているのも良かった。学会に向けて忙しい先輩の時間を使うのも申し訳ないのだが、ここでなんとかしないと、査読が終わる前に人類が滅亡してしまうのだ。
だがしかし、肝心の理論的な部分は分子工学とかとは全然違うので、これは誰か専門家を呼ばねばならない事ははっきりしていた。ただし、その前に解決しなければいけないことがある。このコード群、何故か過去のデータを参照する部分だけコメントもほとんどないし、何か隠されているように見える。この理由を解き明かさないと誰かに聞くにしても説明がつかなさそうだった。
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