開通工事

杉下は電気屋に来ていた。wifiルータコーナーには滅多に来ないが、久しぶりに来ると、新しい機種や聞いたことが無い機能が追加されていたりして、見ごたえがある。多分、1年ぶりくらいだろう。そもそも、wifiルータなんて、一度買ったら普通の人間は5年くらいは全く興味なく、壊れたら次に買うやつを探すくらいだ。


さて、今日の杉下はワクワクが抑えきれずにいた。普段なら、スペック表と値段をにらめっこして、更に、ネットで買う時の値段と比較してやっと買うところなのだが、なんと今はどんなに高いものを買ってもネット決済で買いさえすれば、寝て起きたらその支払い義務はリセットされているのだ。こんなに楽しい買い物は無い。


「これってどれくらい細かい設定できますか?」

「えーっと、これですね。ちょっと待ってください。調べますね。」

「2.4GHzと5.0GHzと、それぞれ要らないとき止めたいんですよね。」

「あー、それならできると思いますよ。電子レンジとか干渉しちゃう感じですか?」

「いや、そうじゃないんですけど、他にいろんな電波が飛んでる部屋で、繋がりにくかったら変更したりしたいんですよね。」

「それくらいなら、これでよいと思いますよ。」

「いや、でも、これのカタログにある、もっとたくさんアンテナ生えてるやつみてみたいんですけど、これってここにあります?」

「え?これですか?かなり大きなお宅用なので、今お手元にあるもので十分かと思いますが……」

「いえ、これじゃなくて、もっとアンテナいっぱいのやつがいいんです。」

「はあ……」


買い物帰りの杉下は満足げだった。普段なら買わないような、色々な機能が付いているし、なんだか色んな設定ができるやつと、ケーブルも、普段なら買わないような高級なやつを買ってみた。正直、ケーブルの品質の良し悪しが性能にどれくらい関係あるのかはわからないが、せっかくだから買ってみても良いだろう。まして、俺は今人類を救うためにwifiルータを買っているんだ。これくらいの贅沢はしたってよいだろう。

あと、中継器もたくさん買っておいた。万が一ケーブルが上手く接続できなかったり、断線してしまった時も、ネットワークを維持できるようにしなければいけない。と自分に言い聞かせながら買い物をしたのだが、流石に棚に並んでいた中継器を全部買ったのはやりすぎだったか。まあいい、実質タダだし、いつか使う可能性だってある。


あとは接続作業をするだけだ。と、ワクワクしながら、杉下は研究所への坂を上り始めた。


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