実家への帰省

久しぶりに実家へ向かう気持ちがこんなものになるとは思わなかった。前回行ったのはいつだろうか。だいたい、1時間以上かかるとはいえ、同じ都内に父親だけが住んでいる家に帰る用事なんてほとんどない。選挙のハガキが実家に届いてそれを取りに行ったときかな。あれも、本当はハガキが無くても投票はできたっぽいけど。


なんにしても、急いで実家に帰り、調べ物をできる限りして、自分の家まで終電でたどり着かなければいけないのだ、結構忙しい。夕方と夜のちょうど中間くらいの空を眺めながら、久しぶりに帰る実家の中のことを思い出していた。


穂高がなんだかんだ黙って実家に調べに行くことをのんだのには理由があった。父さんは大事なものを、母さんの写真が置いてある仏壇の小さいやつみたいなのの下にしまう習慣があった。あと、自分の部屋の鍵がかかるデスクの引き出し。しかも、父さんが大事にしていた手帳があの研究所からは見つからなかった。いや、まだ演算室と研究室しか見ていないから絶対とは言えないのだが、普段の父さんの行動からして、急に発作とかで倒れたならあの部屋に転がっていて然るべきだ。それがないということは、何か大事なことを書いてどこかにしまっているのではないだろうか。それを確かめないと先には進めないような気がした。


実家に着くと、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。当たり前だが留守の家は真っ暗で、空調が聞いているわけでもないのになんだか薄ら寒い。とりあえずかたっぱしから電気を付けて、なんとなくさみしい感じを和らげる。リビングに入ると、想像と違う状況に、穂高は固まってしまった。まるで、泥棒が漁ったか、台風にでも巻き込まれたみたいに、部屋の中がぐちゃぐちゃになっていた。本や洋服、ペットボトルなんかも転がっている。これは、繰り返す日々の中で、どんどん片付けるのがおっくうになっていってしまったのだろうか?いや、違う。この部屋はタイムリープしていないはずなので、5月2日に父さんがこの家を出た時の状態が再現されているはずだ。もし、父さんが手違いでタイムリープさせてしまっていたとしたら、何十年分も時が経過しているので、逆に言うとこんな程度の荒れ具合ではすまないはずだ。


軽く片付けながら、仏壇に向かう。ここだけは綺麗だ。ということは泥棒がこの辺りを漁ったりはしていないということだろう。なんとなく高価なものがありそうなエリアを触っていないということは、家を荒れさせたのはやはり父さん自身なんだろうか?母さんに手を合わせると、そういえば、父さんも母さんと同じ墓に入れてあげないといけないなと思った。天国があるとしたら、父さんと母さんは向こうで会えるのだろうか。どちらかが早くに死んでしまうと天国で会ったときに、すごい年齢差になってしまう、というようなお話がよくあるけど、母さんからしたら数年でおじいさんになった父さんがあらわれるのだから、さぞかしびっくりするだろう。いや、天国はこの場合、タイムリープしてるんだろうか?してないんだろうか?


この際どうでもいいことを考えてるな、と思い反省しながら、引き出しを開けてみる。指輪のケースと、鍵が入っている。指輪は、母さんの結婚指輪が入っているはずだ。鍵は、なんだろう?この家のどこかに金庫でもあるのだろうか?それとも、研究所の何かだろうか?


とりあえず鞄に鍵をつっこんで、今度は父さんの部屋に向かう。父さんの部屋は、最初から少し扉が開いていた。普段はきちんと閉めているはずなのに、やっぱりなにか急ぐ用事があったのだろうか?不信に思う気持ちと興味を抑えきれず、足早に部屋の中に入った。

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