秘密の行方

「先生!ITチームを呼びましょうか!?あら、穂高君と、彼女さん。先生はどちらかしら?」

「えー、えっと、トイレだか研究室にいくだとか言って、ついさっき出ていきました。」

「あら、そうなの?ちょっとエラー音切らせてもらうわね。」


おばさんはずかずかと中に入ってきた。こういう事態は別に珍しくないのだろう。

奥のモニターが置いてある作業机の方にどんどん向かっている。


「あ、そっちは……」

「そっちは何かしら?ちょっとだけマウス借りるわね。あら?こんなところにこんなにたくさんノート並んでたかしら?」


おばさんは慣れた手つきでコンピュータを操作して、ブザーを消すと、何やら別の画面を出して調べだした。


「M-216のディスクエラーね。交換依頼出しておくわ。」

「あ、はい。えっと、そう伝えておきます。ありがとうございます。」

「じゃあ、先生によろしくね。なんかこないだ来た時よりずいぶんと汚くなっている気がするから連休明けたらお掃除もしないとね。」

「はい、そうなんですね。ありがとうございます。」


やることをやるだけやったらおばさんは帰っていった。


「ふー、死ぬかと思ったー。」

「私も、もうだめかと思いましたよ。」


穂高は西浦さんと足元を眺めながら大きく息を吐いた。そのまま足元の床のパネルをずらす。そこには、縦横無尽に走るケーブル類の上に、父さんの遺体があった。スーパーコンピュータの部屋の下には通信線や冷却用の機器やパイプ類などが通る空間があることをとっさに思い出したのだ。床下が動かせる場所を探して、そこに急いで父さんの遺体を隠したのだ。


「父さんごめん。いつか人類を救ったらきちんとお葬式をあげるね。」

「私からも、ごめんなさい。こんなことをして。」

「西浦さんが謝ることじゃないよ。すべて僕がやったことだし。」


そうこうしていると、作業着を来た若い兄ちゃんが、両手に工具と大きな箱を持って入ってきた。急いで床板を閉める。


「こんにちはーっす。ちょっと作業させてもらいますね。初めて見る顔ですね。学生さんですか?」

「あ、はい。そうです。東雲穂高、東雲先生の息子です。」

「あー、君が穂高君ね。名前は聞いてるよ。理学部の学生さんなんだってね。優秀だね。」

「いや、それほどでも……。」


世間話をしている間に、兄ちゃんはラックの扉を開けると、何やらスイッチを色々いじり、ケーブルを抜いたり指したりして、M-216と書いてある場所の部品を入れ替えた。


「これはね。システムが自己診断して、エラーが起きそうなディスクがあると、事前に交換を指示するシステムなんだ。これと、海外のサーバーと連携した3重のバックアップシステムがあるから、24時間365日このシステムは動き続けられるんだよ。」

「そういうもんなんですね。」

「これは、東雲先生が指示して作らせたシステムなんだよ。なんでも、万が一にも計算結果にエラーが出たり、途中で計算が止まったりしてはいけないとかで。」

「なるほど、そうなんですね。」


確かに、時間を巻き戻すような計算をしているときに、止まってしまったら世界はどうなってしまうかわからない。


「じゃあ、僕はこれで。先生によろしく。」

「はい、わかりました。ありがとうございます。」


兄ちゃんが出ていくと、部屋に再び静寂が訪れた。サーバーの機械音だけが辺りを包む。

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