秘密死守
「先輩、どうして戻るんですか?」
「あのまま帰ってしまって、その後にあのおばさんが演算室に入ったとしたら、これを見つけてしまうでしょ?」
眼の前には父親が横たわっている。
「そういうことですね。たしかに。」
「だから、何か対策を考えないと。」
この研究所は、海外との連携プロジェクトもあるし、スーパーコンピューターでの長期間の大規模演算もしているので、24時間、ほぼ365日、誰かが滞在している。父さんも家にいないことが本当に多かった。なので、何かしら人が入ってきてしまう可能性が否定できない。
「とにかく、父さんの遺体をなんとかしなくちゃ」
「なんとかするって、どうするんですか?お葬式しに運び出すんですか?」
「いや、それはできない。流石にあの出入り口で何か言われてしまうだろう。」
「だったらどうすれば……。」
穂高は演算室を見回した。ひたすらに同じようなラックが並んでいる。物が散らかっているようなところはデスク以外無いし、隠れられるところもほとんど無い。穂高は西浦さんと色々な可能性について検討した。ラックを人が入れる分だけ抜いてそこにいれるのはどうか?いや、そうしたら、次のタイムリープがうまく行かなくなってしまうかも知れない。廊下の窓から外に出すのはどうか?2階から安全に出すのは難しいし、何より、外に出したとしてそこから先見つからない保証はない。換気扇に隠すのはどうか?スパイ映画だと人が隠れるのにうってつけだ。だけど、自分で動けない人を天井まで運ぶのは無理だ。しかも、体が固まっていてあのサイズの枠を通れない……。横もだめ、上もだめ、廊下の外もだめ、どうしたらよいのだろうか。
試行錯誤をしていると、急にビーー!と言うか大きな音が鳴り出した。
「な、なんだ?この音は?」
「あ、先輩ひょっとして、これって故障予知機能ってやつじゃないですか?昨日私が読んでいたノートに、故障予知で部品を入れ替えたとか書いてあった……。」
「あー、そうかもしれない。どうしよう。人が来ちゃうよ。」
コンピュータ自体は連続で稼働し続けて、過去に戻ってリセットされるわけではないので、ひたすらに経年劣化していく。なので、必要に応じて壊れる前に、兆候が出た時点でエラーを出力して部品を交換するシステムがある。と書かれていた。元々、担当者がいない間に何かがあったときに、事務所や他の研究室のメンバーでも、修理業者を呼んで直してもらうための機能が備わっていて、それを父さんが改良したらしい。
前回の朝僕たちがここに来るまで父さんがそのままにされていた、ということは、父さんが倒れてから初めてこの機能が作動したということだろう。
「どうしよう入ってこないようにしなきゃ。」
「いやでもそれじゃあ、コンピュータが動かなくなっちゃいますよ。」
「確かに、急がないと!」
と、その時、ドアの向こうから大きな声で呼びかけられた。
「東雲先生、東雲先生、コンピュータ大丈夫ですか?いつもみたいにITチーム呼びましょうか!?あらやだ、この扉こんなに硬かったかしら。入りますよ!」
慌てる僕たちにお構いなしに、扉が鈍い音を立てて開いた。
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