二回目の研究室

研究所までの道のりが今回は妙に長く感じる。これに毎回人身事故の処理待ちが加わったら何回今日を繰り返しても時間がどんどん削られてしまうので、柴田への電話は欠かせない朝の日課になりそうだ。


研究所への緩やかな登り坂も、今回は前回よりも急坂に感じる。やっぱり疲れはたまっているようだ。建物に入って前回同様、受付の人に声を掛ける。


「すみません。東雲副センター長の家族のものなのですが。」

「あー、穂高くんね。私のこと覚えてる?」

「はい、ホームカミングデーの時はありがとうございました。」

「よく覚えててくれたわね。うれしいわ。あら、今日は彼女さんも一緒なのね。お父様に挨拶かしら?」

「いや、そういうのでは無いです。」

「そうなの。残念ね。東雲先生、そう言うの楽しみにされてますよ。本当は事前に入場申請が必要なんだけど、穂高くんは特別に入っていいわよ。」

「ありがとうございます。」

「3階の角のお部屋だけど覚えてるかしら?先生は昨日の夜から泊りがけで研究室にいらっしゃいますよ。」

「わかると思います。ありがとうございます。」


ただ、今回はいきなり演算室に行くので、2階で降りれば良いのだ。今回も、ピー、と言う古めのエレベーターの到着する音がしてドアが開いた。そのまま渡り廊下に向かう。夜更かし明けなので、太陽の明かりがギラギラとまぶしく感じる。


今回も、ギギギ、と言う鈍い音を立てながらドアを開いた。

前回と同じ位置に、父さんの亡骸がある。この部屋がギンギンに冷えているからか、腐敗しているようには見えないが、このまま放置しておくのもいかがなものだろうか?とはいえ、葬儀屋を呼ぶわけにはいかない。何かあって、この部屋を閉鎖されでもしたら、本当にすべてが終わってしまうかもしれない。人目につかない形で何かしら埋葬なりしてあげたいと思う。もし普通に警察が見つけたとしても、50代にはとても見えない亡骸を見たら、大問題になってしまうだろう。


今回は大きめのリュックを持ってきたので、かなりたくさんのノートを入れて帰れそうだ。急いで詰める。古いノートはボロボロになっているものもあって、無理に重ねてリュックに入れるとバラバラになってしまいそうだ。丁寧に扱わないといけない。


貰うものを鞄に詰め込んだら、今回は急いで家に向かうことにする。そのまま階段を下りて受付の前を通る。


「あら、穂高君、もう帰るの?」


受付のおばさんに声をかけられた。


「あ、いや、えっとその……。」

「さっきエレベーター2Fで降りたわよね?先生の研究室は3Fですよ。何かあったんですか?」

「えっと、その、あー、途中で、2Fの演算室に呼ばれていたのを思い出したんです。」

「へー、そうなの。あんまり先生は演算室に他人を呼ばないんですけど、息子さんだと違うのかしらね。」

「そうですね。今日はそういう気分だって言ってました。」

「あら、そうなの?じゃあ、私も行ってみようかしら。」

「いや、でも今は忙しそうなのでやめたほうが良いかと……。」


あぶない。今行かれたら父さんの亡骸を発見されてしまう。それこそすぐに警察が来てあそこに入れなくなってしまう。コンピュータをいじられたり押収されたりしたら最悪だ。


「あ、そうだ、お父さんに伝えなきゃいけないこと一個忘れてました。もう一回行ってきますね。お姉さんが演算室に行きたいって言ってた、って伝えておきますね。」

「あら、そうなの?よろしくね。」


最悪の事態を回避するために何かしておいたほうが良いかも知れない。対策を取るために一旦演算室に戻ることにした。

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