人類を救うために
「どうしよう。」
「どうしようってどういうことですか?」
「え?だって、こんなこと急に言われてもどうしたらいいか分からないよ。お父さんが何十年もかけてできなかったことを、今から僕が何かできるのか……。」
「じゃあ、このままタイムリープをやめて、1ヶ月後に全人類と一緒に死ねばいいってことですか?」
「いや、そんな事は言ってないよ。どうしたらいいかわからなくなっただけ。」
「それは私も何もアイディアはないんですけど、諦められないですよ。」
「うん、そうだね。まずは作戦を練ろう。ちょっと寒くて耐えられなくなってきた。ノートだけ何冊か持って外に出よう。」
「分かりました。お父さんはどうしますか?」
「一刻も早くお葬式をしたいんだけど、そんな時間はないし、これを外の人に伝えて、警察や救急に説明を求められてる間に今日が終わっちゃう。一旦何もなかったふりをして外に出ることにする。」
「わかりました。」
2人はカバンに入るだけのノートを入れると、遺体に両手を合わせ、部屋を出た。
部屋を出ると、スマホが急にピロピロ鳴り始めた。メールや着信履歴がたくさん来ているようだ。恐らく、サーバールームの電波が悪く、受診できていなかったのだろう。
すると、新たに電話がかかってきた。
「はい、もしも……」
『おい、穂高!お前どこにいるんだよ。もうとっくに集合時間過ぎてるぞ。お前いなかったら練習にならないじゃんか。』
あ、しまった。僕は本来この時間はカラオケに行っていなければいけなかったんだ。色々ありすぎて完全に忘れていた。
と言うか、人類が滅亡しようかというときにカラオケなんて、こいつら何やってるんだ。いや、僕は人類が滅亡しそうだし父親がそれと戦っている間に毎日歌ってデートして過ごしていたんだ。何も人のことは言えない。
「あー、ごめん。実はえーっと、あのー、あー、そうだ。昨日夜ゲームやりすぎて今起きたんだよね。完全に寝坊。申し訳ない。」
『どんだけ寝坊してるんだよ。』
向こうでみんながワーワー文句言っているのが漏れ聞こえてくる。そりゃそうだ。約束があるのに11:00近くまで寝坊するやつなんてそうそういない。
「とにかくごめん、今回は休ませてもらうよ。今度絶対穴埋めはするから。ほんとごめん。」
まだ何か言いたそうな空気を感じつつ無理やり電話を切る。
「あ、ごめん。本当は今日この時間、横木たちとカラオケに行ってる予定だったんだ。」
「練習するって前に言ってたやつですね。練習熱心ですね。」
「そうだね。大学最後のステージが控えてるから。でも、それもこのまま行くとその日まで人類が生き残ってないのかもしれないけど……。」
「そうですね。私達でなんとかしましょう。国会とかに言いに行ったら何かしてくれるんでしょうか?自衛隊を動かしてもらったりとか。」
「うん、僕もそういう事は考えてたんだけど、お父さんのことだから、そう言うのはもうやってると思うんだよね。研究所の上は経産省だから、経産省には話がしやすかったはずだし。」
「そうなんですね。じゃあ、どうしましょうか。」
「それを考えるために、まずはノートをできる限り読んでみたいと思う。うちに帰るか、カフェで一緒に読まない?」
「あ、そうですね。でも……。」
「ん?何?」
「一回おうちに帰ってシャワー浴びて着替えてきてもいいですか?」
「あ、そうだね。僕もそうする。」
しまった。そのあたりケアしてあげなきゃいけなかったか。我慢してたのかな。前回まではあんなに西浦さんとのデートのことを考えていたのに、他のことを考えなくなった途端これだ。タイムリープはなんて難しいんだろう。
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