ノートの中身

1ページ目には、もう一度、『穂高へ』と書いてあった。2ページ目を開く。



『万が一の時のために、ここに必要なことを残す。

お父さんがこんなに年を取ってしまったのは、この研究室だけ、何十年分も5月3日を繰り返しているからだ。』


「やっぱり、この遺体はお父さんだったんだ……。」

「そう、みたいですね……。」


『最初に、お父さんの研究は、重力物理学を応用した時空間の経過の記録に関するものだ。簡単に言うと、ループ量子重力理論を応用し、量子化された時間の経過を重力場から逆問題を解くことによって、観測可能な宇宙空間全体の時間経過による物理的な変化を記録し、任意の時間を再現することができるという理論だ。細かく説明すると、まずループ量子重力理論では、時間とは……』


「どういうことですか?これ。」

「よくわからないけど、過去に戻れるみたいなことが書いてあるんだと思う。つまり、タイムリープの元凶はやっぱりお父さんだったっていうことみたい。」


ちょっと、細かいところを読んでもいきなりは分からなさそうなので、二つ目の話を探す。


『次に、地球には今観測されていない大きな隕石が近づいてきていて、約1か月後に隕石と地球が衝突し、全人類のほとんどが生き残れないだろうといわれている。

ただし、これは5月18日に観測、発表されることだ。もうそこからは2週間しか人類に残された時間は無かったんだ。お父さんは日本政府からも話を聞いていたが、世界中のあらゆる手段を使って衝突を回避しようとしたが、できなかった。』


「人類が生き残れないって……。本当ですか?」

「正直信じられない話だけど、この状況でノートに嘘を書く理由がわからない……。」


『衝突がどうにも避けられなくなった時に、お父さんの研究で試作していた記憶装置を使って、この研究室以外の時間を戻すことに成功した。ただ、この時記録されいた情報の時間は5月3日の2:00のものしかなかった。記録するべき情報が膨大であるため、複数の時間の記録を残しておくことは現代の技術ではできていなかった。

そのあと何回も5月3日からの1カ月間を繰り返したのだが、5月4日の午前中には、地球への衝突を避けられない重力範囲に突入していることが分かった。

なので、お父さんは装置の設定を固定して、5月3日の2:00から5月4日の2:00までを繰り返して、衝突回避ができるまで対応をすることにした。』


「お父さんは、人類を救うためにタイムリープをし続けていたということなのかな?」

「そういうことみたいですね。そんなことってあります?ていうか、タイムリープできること自体信じられないのに、それをシノ先輩のお父さんが開発していて、しかも人類が滅亡しそうだなんて、急に、たくさんの話が出てきすぎじゃないですか?」

「そ、そうだよね。本当かな……。でも、やっぱり嘘をついてるとは思えない。現に僕たちもタイムリープしてるからね。」

「そうですね。信じます。」


僕たちは次のページを開いた。




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