真相へのヒント

「大丈夫ですか!?」


穂高がかけよって触ると、マネキンでも触っているかのような冷たさだった。確実に息はしていない。今まで死体と接したことは無いのだが、死んでいるのは間違いないなと思った。この感じはついさっき死んだ感じではないと思う。


「死ん…で…る…。」


穂高は固まってしまった。それでも勇気を振り絞って恐る恐る顔を見ると、どこかで見たことがある顔だった。


「おじ…いちゃん?」


最近会っていない、祖父の顔に似ている気がするが、ちょっと違う気がする。しっかり顔を覗き込んではっとした。右目の下と左鼻の下にホクロがあるこの顔の特徴、間違いなく。自分の父親だ。だが、少し見かけなかったからと言って老け過ぎだ。死んで時間が経ったからと言ってこんなふうに白髪になったりするだろうか……。


「先輩、どうしましたか?この人、誰ですか?どうして倒れているんですか?」

「全然わからない。でも、多分この人は僕の父親だと思う。」

「え?でもこんなおじいさん、先輩のお父さんの年齢なんですか?」

「僕もそう思ったんだけど、この顔の特徴は僕の父親だと思う。」

「本当ですか?あ、えっと、救急車とか呼ばなくて良いんですか?」

「多分その意味はないと思う。死んでからかなり時間が経っているように見える。」


遺体は完全に冷え切っているし、乾燥しきっている。


「そうしたら、警察に連絡しないと。」

「待って。色々と不思議なことがあるんだ。まだ朝でしょ?受付のおばさんは、『先生は昨日から泊りがけで研究室にいる』って言ってたでしょ?だとすると、昨日は受付のおばさんとお父さんが顔を合わせているはずなんだ。こんなに顔が変わる何かが起こってるのに、何も言わないのは不自然だよ。」

「確かに、そうかも知れないですね。このニュースに載ってる東雲教授の写真と、全然違いますね。」


西浦さんが見せてくれたのは、いつだったか教えてくれた、このセンターが記者会見を開くというネットニュースだ。そうだ。5/2には、この顔の父親が、ニュースに載っているのだ。それは間違いない。


「だから、あのおばさんが何か隠しているとか、何か陰謀にお父さんが巻き込まれていたとかの可能性もあるんじゃないかな。だから、他人を呼ぶ前にちょっと調べさせてもらいたい。」

「わかりました。そうかもしれないですね。」


横の机を見てみると、デイトレーダーみたいにたくさんのディスプレイが並んでいて、パソコンの画面が表示されている。更に、サーバールームにはふさわしくない本棚には数え切れないくらいたくさんの大学ノートが置かれている。


恐る恐る、パソコンを操作してユーザー名を表示すると、“Takashi Shinonome”と表示された。


「やっぱりお父さんだったのか……。」


小さな声でつぶやくと、隣から西浦さんの声が聞こえた。


「そうみたいですよ。ほら。」


彼女の手にはIDカードのようなものがぶら下がっている。確かにお父さんの写真と名前がそこにはかかれている。ただ、写真も名前も掠れてしまっていて、一瞬では判読できないレベルだった。


穂高の頭の中に、嫌な予感が生まれ始めた。

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