父の元へ
穂高の父親、東雲高は、日本重力物理学研究センターの副センター長をしている。母親は僕の記憶があまり残っていない頃に亡くなっていて、穂高はそれ以来、父と二人暮らし、父が忙しい時は父方の祖父母の家で暮らしてきた。
大学に入ってからは、実家から通えるといえば通えるのだが、別に実家にいる意味もあまりないと思って、大学近くに引っ越してきた。と言うのも、父は副センター長になる前から、夜遅くまで帰ってこなかったり研究所に泊まり込みになることが多く、海外出張も頻繁にあったからだ。
「僕は既に何回もタイムリープしてるんだけど、最初にタイムリープしたとき、父親から電話があったんだ。だけど、2回目以降は電話が来てない。僕の部屋の外で起こってるもので、タイムリープするごとに違う動きをしてるのは今のところそれしかない。うちの父親が何かを知っている可能性があるし、少なくともタイムリープはしてるんじゃないかと思う。」
「そうなんですね。とりあえず、行ってみましょう。さっき先輩が電話してる間にスマホ見てたら、昨日見たのと、同じニュースが流れてきてるみたいなので、本当にタイムリープしてる確信が持ててきました。」
良かった。しっかり信じてもらえたようだ。さっきまでは半信半疑だったんだな。
「あ、って言うことは、元々先輩の部屋の外にいた私は今二人になっちゃってるってことですか?」
「え?あ、どうなんだろう。わからないかも。」
「ちょっと家に電話してみます。」
「もしもし、お母さん?私だけど。」
『あら、奏奈ちゃん。今日はお母さんが起きるより早くお家出たの?全然気が付かなかったわ。』
「う、うん、そうなの。急にお友達と大学で会わなきゃいけなくなっちゃって。」
『そうなのね。今日の帰りは遅くなるの?』
「うん、多分遅くなると思う。じゃあね。」
『はい、わかりました。行ってらっしゃい。』
「私は家にはいなくて、家族は私が朝早くに家を出たと思ってるみたいです。」
「そうなんだ。まるっと空間がコピーされるわけじゃなくて、一つ一つのものが時間が巻き戻されたりされなかったりしてるのか。空間をまるっとコピーして巻き戻してたら、僕の家にいる西浦さんと、西浦さんの家にいる西浦さんの二人が存在することになるもんね。」
「そうですね。そうみたいです。」
ご家族的にはお泊りをしたことがなかったことになっているのか。これは好都合?かもしれない。
研究所まではうちから電車で40分くらいかかる。先程柴田に電話しておいたので人身事故は回避されたようだ。駅では通常通り電車が動いている。
電車の中ではタイムリープの話はしないほうが良いかもな。周りの人に怪しまれてしまう。何もやましいことはないのだが、変人だと思われるのも嫌だ。
「あのさ、昨日の夜……」
「あ、ごめんなさい。家までついてきてしまって。しかも寝ちゃって。あと、タイムリープまで一緒にさせてもらって……。」
タイムリープさせて謝罪されるとか、恐らく僕が人類初だろう。
「あ、ごめん、こちらこそ。全然問題ないよ。むしろありがとうを言おうと思ってたんだ。でも、タイムリープの話を人がいるところでやるのは控えておこう。」
「そうなんですか?何か陰謀とかあるんですか?大丈夫かな?」
「そういうわけじゃないんだけど、変な人と思われるかもしれないし…。」
「そうですね。わかりました。」
一応本当に昨日何もなかったのか聞こうと思ったのだが、なんだかそんな雰囲気ではなくなってしまった。
しばらくの沈黙が続いた後、電車のアナウンスが、父の研究所の最寄り駅名を告げた。
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