解決手段
「あーー……あーーー!!」
穂高の声がフロントに響き渡る。隣で受付を始めていたいつも抑え役をやっている金髪もなんだコイツ、と言いたげな顔でこちらを向く。
「そういえば、クーポン見てたときに気がついたんですけど、今お誕生日クーポンってありますよね?あれってどういう内容でしたっけ?」
「はい、お誕生月の方にはミニケーキをプレゼントしております。更に、今日がお誕生日の方がいらっしゃる場合には全員分のミニケーキをお出しします。」
「あー、そうなんですねー。あー、あいつ今月誕生日だった気がするなー、どうだったかなー。これ、お得だなー。後で聞いてみようかなー。」
チラチラと隣の様子をうかがう。
「なあ、隣の客に言ってる話本当か?こっちは今日誕生日の子がいるんだよ。」
よし、乗ってきた。作戦通りだ。こんな形で前回の情報収集が役に立つとは。ギャルのテンションが上がらない理由が、事前に入れた誕生日情報をスルーされているからだとすれば、それをなんとかしてやればいいのだ。
「はい、会員になっていただければ、ミニケーキお出ししますよ。会員登録はこちらのQRコードからお願いします。」
「めんどくせぇなぁ。ちょっと待っててくれ。」
「はい、かしこまりました。ごゆっくりとどうぞ。」
作戦成功だ。これで、今日誕生日のギャルの機嫌が良くなれば、こちらに火の粉が飛んでこなくなるかもしれない。
「おー、穂高か。珍しく早いな。いつもギリギリなのになー。」
横木が現れた。一番最初に歌い出すだけじゃなくて、一番最初に店につくのもやっていたのか。まあ、毎回15分も前に店に着いて待っていたなら、歌いたくてうずうずしていたのも許せるな。
「そうそう。早く起きちゃってさ。あと、クーポン見つけたから使いたいなと思って。」
「そうなんだ。ナイスー。で、まだ入れないの?」
「受付は先にできるけど、部屋に入るのは時間になってかららしいよ。」
こいつ、どんだけ早く歌い始めたいんだ。ひょっとしてボーカルやりたかったのか?
「お、もう、2人も来てるのか。結構早く着いたつもりだったのになー。」
杉下がやってきた。
「今日は人身事故でも起こりそうな気がしたからちょっと早く出たけど、普通につけてよかったよ。」
その人身事故は僕が防いだやつなのでは?ていうか、こいつは鉄オタを極めすぎて電車の未来が読めるエスパーにでもなったのだろうか。
そうこうしているうちに、全員集まってきた。僕と一緒に来る予定だった高岡が結果的に最後にやってきた。
「おー、穂高が受付しといてくれたのか。サンキュー。」
「じゃあ、そろそろ行くかー。」
みんなそれぞれの楽器を持ってガヤガヤ部屋に入っていく。隣の部屋はやはり金髪コンパ組のようだ。機嫌が良いまま終わることを祈りたい。
あ、しまった。先にクーポン使っちゃったからプレートを頼み忘れてしまった。と言うか、勝手に頼むわけにはいかなかったから、頼みそこねてしまったと言うのが正解か。
5回目にして、無事無駄なプレートを頼まないことに成功したのに、僕はそれを見越して朝食抜きで来てしまったから、昼まで空腹を我慢しないといけなくなってしまったじゃないか……。
あちらがたてばこちらが立たずとはこのことか……。
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