順風満帆……にはいかないもの

電車に揺られながら、柴田のアイドルに対するアツい想いを聞かされる。周りの人には、きっと僕もドルオタだと思われていることだろう。

それよりも、これまでの『今日』であれば、この時間には生きていなかった人間と喋るというのが、冷静に考えると、不思議でならない。更にいうと、タイムパラドックス的なものにならないか不安にもなるが、タイムリープしているだけなので、柴田が今生きていることで僕が生まれてこなくなったりはしないし、世界が終わったりすることはない。

向こうからしても、命の恩人と喋っているとは思いも寄らないだろう。こちらとしては大きな貸し1つ作ったのだが……


「しまった」

「ん?なんだ?ライブのチケットでも取り忘れていたか?」

「あ、いや、なんでもない……」


また次の今日がやってきたとき、同じ駅にいかないと柴田はスマホを線路に落としてしまう。それを防ぐには自転車で駅までいかねばならないのだが、その自転車は駅に置いてある。タイムリープしたら世界がもとに戻ることは、クラウドデータが戻っていることから確認しているが、僕の所有物が全部リセットされることは確認していない。もし明日の朝、家に自転車がなかったら、僕は柴田を救いに行けない。


「なんだよ。急に大きい声出したり黙り込んだり。穂高今日なんか変だぞ。」

「あ、そうかな?そうかも。五月病ってやつかもしんないな。」

「五月病ってそんなもんだったっけ?まあいっか。」


途中駅で柴田は降りていった。いつの間にか僕の朝のタスクに友人の命を救うミッションが加わってしまった。


カラオケに着くと、うちのグループメンバーは誰もいない。流石に30分早く着けば誰もいないだろう。


「すみません。6人なんですけど、これからフリータイムで入れますか?」

「お部屋への案内はお時間になってからですが、混み合うので受付だけは先にできますよ。」

「ありがとうございます。」

「では、最初のドリンクをご注文いただきたいのですが、皆さんの分お決まりでしょうか?」


当然普通なら知る由もないのだが、このやり取り、僕にとっては5回目だ。誰が何を頼むか全部心得ている。なんだったら一曲目の歌まで分かっている。


「あ、全員分か書いてるんで大丈夫です。まずウーロン茶が2杯と…」


ウィーン、後ろの自動ドアが開いて急に賑やかになった。


「こいつコンパでカラオケ行くの好きでさー。ホント歌好きなんだよなー。」

「こいつバンドやっててボーカルなんだよ。」

「おい、先に言うなよー。」


どこかで聞いたことがある声だ。と言うか、ここでこれまで何度も聞いた声だ。隣の金髪集団がギャル?を連れて入ってきた。

うちらの直前に来店していると思ったのに、こんなに早く来ていたとは…。

こうなると、順番的に結局隣同士になってしまう。恐らく彼らの部屋とうちらの部屋が入れ替わるだけだ……。柴田の命は救えたのに、こちらの問題は解決することができなかったのか……。

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