事故回避

同じ学科の柴田だ。ガジェット好きで有名なのだが、今日も両手に1台ずつスマホを持って歩いてきている。


「おい、柴田!」

「わぁ!びっくりした。穂高か。」


両手持ちの歩きスマホなんかしてたらいつか誰かにぶつかるだろう。と言うか、この感じ既に誰かにぶつかっているだろうな。


「なんだよ、ずっとスマホ見ながら歩いてきて……。」

「おー、これな。昨日買ったばっかの新しいスマホなんだよ。アプリの入れ替えでうまくいってないのがあって、移行作業してるんだよ。そんなことより、お前の家この駅じゃないだろう?こんなところでどうしたんだ?」

「あ、いや、ちょっと野暮用があってね。そんなことより、お前そんなことしてたらいつか線路に落ちて大怪我するぞ……」


はっとして柴田の顔に目を向けた。


「ん?何だよ急に」


その時、プワーーンという音ともに、電車が横を駆け抜けていった。


そこで全てが解決した。前回まで、人身事故の原因になっていたのは柴田だったんだ。両手持ちのスマホのどちらかを落とした拍子に線路の方に向かってしまい。その瞬間に急行電車が来たのだろう。


高木が、一本前の電車と言っていたのは、一本前の急行電車だったようだ。よく考えたら自殺するためにタイミングを合わせたりしなければ普通電車で人身事故にはなりにくい。


「だからなんなんだよ!」

「あ、ごめんごめん。スマホ落としそうだなー。と思ってさ。」

「あ、そうそう。家を出るときに新しい方にスマホリングをつけるの忘れちゃったんだよね。穂高こんな時間にどこ行くの?」

「あ、サークルの仲間とカラオケに行こうと思って。ちょっと早めに出ちゃったんだ。柴田はどこいくの?」

「あー、俺はさっきSNSで急に発表されたKZS28のゲリラライブ告知につられて、渋谷まで行こうかと思って急いで飛び出してきたんだよ。だからスマホリングも忘れちゃったんだよね。」

「そうなんだ。気をつけてね。」

「おぅ、俺は見つけてすぐに飛び出してきたからな。相当前の方で参加できるはずだぞ。」


見せてもらったスマホには、10分前の投稿が表示されている。10分未満で家を飛び出して駅までやってきたのか。僕の最速タイムより早く家を飛び出しているじゃないか。こいつやばすぎる。


「お、そろそろ電車来るぞ。方向は一緒だな。」

「う、うん、そうだね。一緒に乗るか。暇つぶし相手がいて助かったよ。」

「なんだよ。暇つぶしって。失礼だな。」


とにかく、この時間まで誰も電車に轢かれていなくて電車も止まっていないということは、やはり柴田が人身事故の被害者だったようだ。偶然にもタイムリープを繰り返すうちに友達の命を救ってしまったらしい。すごい奇跡だが、本当に良かった。

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