情報収集
トイレの方に行くと、手を洗う場所は扉がないタイプで、女子トイレの方で大声で会話している様子が思いっきり漏れてきてしまっている。
「優奈、今日誕生日なのにこんなとこ来てよかったの?」
「別に予定ないからいいんだけどさ。イケメンいなくて今回は微妙ー。」
「さり気なく優奈の誕生日のこと伝えてたから、気の利いたことしてくれると思ってたんだけど、マジイケてないねー。」
「そうそう、なんか盛り上がらないよねー。」
ここで聞いてるのが僕だから良かったものの、昨日の金髪集団がここにいたらどうするつもりなんだろう。ブチ切れて手でも上げられやしないだろうか。どっちにしても、金髪集団が盛り上げきれていないらしい。
そのせいで不機嫌になってこちらの歌に文句を言いに来ているんだとすると、ひどい話だ。せっかくこちらはバンド機材一式持ってきているので、盛り上げに行ってやってもよいのだが、それで何か喜ばれるかというとそうでもない気がするのでやめておこう。
せめて、女の子達の曲の趣味でもわかればと思ったのだが、そういう話は聞けない間に、部屋に帰っていってしまった。
僕も戻ることにしよ。その前に個室の扉を開ける、昨日壁紙の端を小さく破ったのだが、それが元通りになっている。古い紙なので、新しく店員が用意したわけではなさそうだ。
つまり、時間は本当は進んでいるのに、僕や僕の周りの意識だけ巻き戻されて、時間のループの中に閉じ込められている系のタイムリープではないようだ。
今朝、スマホのブックマークが消えていたのも、クラウドサービスに登録された情報が昨日の状態に戻っているからなのだろう。だから、例えば今日僕が今のカラオケの部屋が使えなくなるような騒ぎを起こしても、次回にはきれいに元通りになってしまっているので、結局同じ部屋に通されてしまうわけだ。
部屋に戻ると、一旦歌が止まっていて、みんなで楽譜を開いていた。
「そういえばさ、今日の人身事故って何時にどこで起きたの?」
「あー、あれは8:45くらいにお前んちの一個向こうの駅で人が飛び込んだらしいぜ。」
「そうなんだ。」
鉄オタは人身事故の情報にも詳しいらしい。
「らしいな、線路に落ちたスマホか何かを拾いに行ったらしいぞ。周りの人が喋ってた。」
「そうなんだ。」
スマホのために命を落とすとか、考えられない。だからどうしたら良いとか言う話はないのだが、僕の周りで何が起こっていたのか、だいぶ情報が集まってきた。
これらの情報をもとに、作戦を練らねばならない。
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