ベストなデートのために

さて、お昼のイベントは不発に終わってしまったが、夜のデートはそうなるわけにはいかない。

何かやるべきことがあるかもしれないと、前回のことを思い出す。反省点は、「勉強の話し過ぎ」「映画はコナンの話から入らない」だ。


かと言って女の子がよく見るような映画の話をできるわけでもないので、映画の話はしないのが良さそうだ。いや、でもあの状況から映画の話を除いたら、本当に勉強の話だけになってしまう。あー、これはまとまらない。考えていたら僕の入れた曲の順番が回ってきてしまった。歌っている場合でもないのだが歌わねばならない、ボーカルの悲しき性が現れてしまう。


とりあえず、話の流れはともかく、僕のほうがレストランに後で着いてしまったことの方をなんとかしよう。前回より早めに抜けさせてもらうことにしよう。


「ごめん、僕この後家で荷物受け取らなくちゃいけなくてさ。ちょっと早めに抜けさせてもらうわ。」

「えー、なんだよそれー。再配達してもらえばよくね?」

「一次会で帰るのかよ?せっかくこの後俺んちでゲーム大会でもオールでしようと思ってたのにー。」

「いや、ほんとごめんごめん、これ大事なやつなんだよね。しかも、すでに1回受け取り損ねてて、2回目は無いと思うんだよね。」

「なあ、穂高、受取って何時から何時?」

「あ、えっと……。18:00〜20:00かな。」

「えっと、じゃあ、穂高んちなら、17:22にそこの駅に着けば、17:47にお前んちの最寄りに着くから、そしたら間に合うな。」

「あ、えっと、そうかな?そうかも?」


杉下このやろう。こんなところで人間時刻表の能力を発揮するんじゃない。昨日はうまくいったつもりだったのだが、杉下は杉下なりに脳内で時刻表を確認して、あの時間ならそうだと納得していたのだ。こいつらをだますには、相当な理論武装が必要になるということか。ならば、明日はそれに負けない理由を持ってきてやる。


結局、前回と同じ電車に乗り、前回と同じところで信号に引っかかり、前回と同じ経路を通ってカレー屋にやってきた。前回も入口ですれ違ったおじさんに通路を譲りつつ、店内に入る。昨日と同じ場所に彼女はいる。


「お客様!お客様!どなたかお探しですか?」


しまった、前回来ているのでもう店に認知されている前提で席の方に歩き始めてしまった。よく考えたら完全に不審者が急に店内に入ってきたかっこうだ。


「あ、すみません。予約した東雲です。もう既に案内されてると思います。」

「あ、あちらのお席ですね。どうぞ。」


前回の記憶について、無い前提で接しなければいけないシーンもあるのか。これは相当やっかいだぞ。気をつけなければいけないことが多すぎる。

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