ディナーの時は
「西浦さんはさ……」
何か勉強のことではないことを聞かなくては……。ただ、こういう時何を聞けばよいのだろう……。女の子と話をしないわけではないが、なんというか、こう、ぐっと二人の距離を詰める鉄板の殺し文句を心得ているわけではない。
「あ、そうだ、コナンの映画って見る?毎年GWにやるよね。」
あー、違う。勉強の話じゃないけど、それじゃない。
「え?コナンですか?ちょっと最近見ないですね。」
「あ……、そうだよね。映画はあんまり見ない?」
「そうですね。私は今度公開のディズニーの映画は見に行こうと思ってます。」
あー、あー、同じアニメでもそっちだったか。そうだよな。そりゃそうだよな。
「っていう感じで、今度のプリンセスもとっても可愛いんですよ。って、先輩聞いてます?」
「あ、あー、そうなんだね。プリンセス良いよね。」
会話が空振りしている間にカレーが到着してしまった。
「わー、お洒落な盛り付けですね。ライスがカレーの真ん中に島みたいに置いてあるー。」
「そうそう、これ、かわいいよね。」
このタイプはカレーとライスの割合の計算がしやすい。同じ角度ずつカレーとライスを掬うようにすれば、最後まで最適なカレー:ライス比で食べることができる。
「先輩、面白い食べ方ですね。ピザをカットするみたい」
「そうかな?これが最適なカレー:ライス比で食べるためにベストな食べ方なんだよ。」
「こんな時も最適な比率とか考えてるんですね。理系っぽい。」
「西浦さんも理系だよね?」
「そうですね。でも私は、あんまり理論系じゃないので、ディズニー見るときにお城の構造とかどうなってるのかなー。って思うとかですね。」
「へー、建築系だとそうなるんだね。」
そういえば、建築系の実験でコンクリートをハンマーで壊して強度を調べたりしてるとか言ってたな。ワンピースを着てお洒落カレーを口に運ぶ姿からはなかなか想像もつかない。
「そういえば実験とかも楽しいって言ってたよね?」
「そうなんです、こないだもコンクリート壊したりしてたんですよ。」
「そうそう、それ聞いたー。」
あれ?結局気が付いたら実験の話とかしてるぞ……。
もうでも、今から話を切り替えるのもどうしたらよいかわからない……。
もう今日はこの流れで話をするしかないか……。
「デザートのバニラアイスです。」
建築理論と都市工学の話で盛り上がるテーブルにはに使わないかわいらしい器に入ったアイスをもって店員がやってきた。
カレーで辛くなっている口にアイスのひんやり感がたまらない。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさま。今日は僕が出すね。」
QR決済の音が控えめに鳴る。クラウド保存されている残高が減るだけだと、あまり懐が痛む感じなく奢れてしまう。また明日バイト頑張らなければ。
「今日はごちそうさまでした。お休み明けもまた就活頑張ってくださいね。」
「ありがとう。あと一歩だから頑張るよ。終わったらサークルにもまた行きたいからね。」
「そうですね。また歌いましょう。」
しっかり話は盛り上がったが、距離感が詰められたかは微妙だな、と思いながら二人で駅に向かう。途中まで電車が一緒だったが、こないだの面接のエピソードを話したくらいで、結局気の利いた話ができずじまいだった。
また今度のデートに期待だな。そのためには本当に就活を頑張らねば。
やっぱり、GWは短い。2週間くらいは欲しい。なんだったら1ヶ月くらいあってもいいもんだ。
東雲穂高は家の電気をつけながら思った。
残りのGWを大事にせねば。今日は早めに寝ることにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます