失敗
昼時またぎのカラオケフリータイムは昼ご飯をどうするか、という重大な問題を乗り越える必要がある。
我々はベテランのカラオケフリークなので、ローテーションで近くの牛丼屋とかに行ったりしてコストを下げるというノウハウを習得している。その間メンバーが減るわけだが、部屋が静かになると、いやおうなしに周りの部屋の音が漏れ聞こえてくる。これが上手であればいいわけだが、そんなわけもなく、隣からは爆音で音の外れた歌が聞こえてくる。交互に男性曲と女性曲が聞こえてくるので、おそらくコンパか何かなのだろう。
「おい、こっちで同じ曲の正解の歌い方、きかせてやろうぜ。」
「それいいな。ちょうど今の曲は最後に歌おうと思っていたやつだし。」
定期的にカラオケに来ていると、こういう縛りを入れていかないと毎回同じ曲ばかりになってしまう。曲名しりとりカラオケや、桜が入っている曲縛りカラオケなど、これまで数々のイベントカラオケをこなしてきた。
しばらく隣の選曲リストをコピーして歌っていると、順番に昼ごはんに出ていたメンツが戻って揃ってきた。ふと外をみると、全員部屋に戻ってきているはずなのに、扉の外から覗いている人影が見える。すると、
バーーーン
と扉を蹴り開けて、金髪ピアスのいかにも、というやつが入ってきた。
「お前ら馬鹿にしてんのか!こっちの曲の真似してんじゃねーぞ!」
後ろでこれまたいかにもっぽい風体のやつが、シャツを引っ張って制している。
「おい、やめたれ、こんな男だけで昼からカラオケしてるやつらと絡むな。」
それでも、先に入ってきたやつの怒りは収まらない。何か細かいことは聞き取れないが、部分的にわかる単語を聞き取る限りでは、死ねとか許せないとか叫んでいるようだ。
「…おい、やばいぞ…」「とりあえず謝ったほうがいいな…」
と目線で会話をする。
「すみませんでした。もうしません…。」
「ごめんなさい」
口々に謝罪の言葉を述べる。だが、全然怒りがおさまる気配が見えない。なんだか、向こうの金髪のやつらどうしで、もうやめろだのやめないだのと内輪もめまで始まってしまって、状況がどんどんカオスになってきた。
「お客様、どうしましたか?」
神降臨だ。店員が監視カメラを見て、来てくれたようだ。
「おい、店員まで来たぞ、もうやめろ!」
金髪Bが金髪Aに言いながら金髪Aを引っ張って自分の部屋のほうに戻って行ってくれた。店員は、お客様同士のトラブルは困ります…。とボソッと言いながら去っていった。ひょっとして、受付では入れている曲が分かっていて、こちらが悪ふざけで選曲の真似をしていることが分かっていたのかもしれない。
「…っはー、助かった。どうしようかと思った。」
「まったくだよ、誰だよ、真似しようとか言いだしたやつ。」
「みんな悪乗りしてやるって言ってただろ…」
いずれにしても、せっかく盛り上がっていたのが一気に盛り下がってしまった。
しかも、これからは、隣と選曲が被らないように注意を払いながら曲を選ばなければいけない。
すっかり意気消沈しながら、空元気のカラオケを続けないといけなくなってしまった。
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