夢でも見てた?
朝の一大無駄足から家に帰る途中、向こうから知った顔が歩いてきた。
高岡新史、サークルの友人だ。うちの軽音サークルでは、ギターを弾かせたら一番とは言わないまでも、真ん中ちょい下くらいには上手な、まあ言ってしまえば才能は多分ないんだけど、好きなんだろうな、本人が楽しければそれでいいよ、という感じのやつだ。
昨日のカラオケで一緒にいたのだが、なんだか服装も見覚えがある。ひょっとしてオールでもして今帰ってきたところなのか?それにしては駅に向かって歩いているのが不思議だ。
恐らく飲んで酔っ払って帰って、駅に自転車を置きっぱなしにして取りに来ているとか、そういうことだろう。
と思いながら歩いていると、向こうから声をかけてきた。
「おーい、穂高!どうして駅から歩いてきてるんだ?忘れ物でもしたか?」
「いや、今日はバイト入れたつもりで駅に行ったんだけど、明日だったみたいなんだよね。」
駅での一連の出来事を思い出しながら、だるそうに答える。
「バイトってお前、今日はみんなでカラオケの日だろう。逆にバイト入ってたら来られなかったじゃんか。」
「え?カラオケって、また今日も行くのか?誰と?」
いくら音楽好きでも、同じメンツで2日連続でカラオケに行くのは、本番直前にスタジオ取れなくてカラオケで練習するときくらいだ。
「俺とお前と、横木とか杉下とかに決まってるだろ、いつものメンツ。」
いやいや、そんなはずはない、だってそのメンツでは昨日カラオケに行ったばっかりだ。2日連続だったら計画の段階で絶対にツッコんでいる。
不思議な気持ちでいると、左腕に付けたスマートウォッチが震える。よくある広告メールだ。AIがどんなに進化しても、広告メールをしっかりブロックするAIは搭載されないらしい。
多分、広告業界に気を使ってAIの精度をわざと落としているか、広告業界が更に強力な。AIにAIだと悟られないAIを作っているに違いない。
なんて考えていたら、ふとさっき視界に入ったスマートウォッチのカレンダー表示が脳内にフラッシュバックしてきた。
(確か今5/3、みたいな文字が見えたような…)
急いでもう一度左腕を見ると、確かに5/3と書いてある。5/3は、確かにいつものメンツでカラオケに行く約束をしていた日だ。バイトに行く日では無い。
ひょっとして、昨日カラオケに行った気分になっていたのは、夢でも見ていたのか?確かに、いつものメンバーでいつものカラオケに行っただけで、誰が何を歌ったかまで思い出せるけど、それは結局みんながいつものように同じ曲を歌っているからのような気がする。
だとすると、色々腑に落ちる。今日が5月4日だと思って目覚めたのに本当は5月3日なのだとすれば、そりゃバイトも無いし、今からカラオケに行く高岡に会うのも必然だ。
「何ぼーっとしてるんだ?そろそろ駅にいかないと集合時間に間に合わないぞ。」
時計を見るともう9時を過ぎている。確かに移動時間を含めると、フリータイムが始まってしまう10:00ギリギリだ。
「あ、あぁ、そうだね。じゃあ行こうか」
行ったり来たりだが、二人で駅に向かってふたたび歩き出した。
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