繰り返される日々
2回目の朝
ヴー…ヴー…
スマホのバイブで目覚める。
時計を見るとまだ7:00だ。アラームを設定した8:00までまだ1時間もある。
よく見たらアラームではなく着信通知のようだ。
スマホメーカーの企業努力は凄いものでアラームだろうが着信だろうが、ちゃんと寝ている人間をたたきおこす、無視できないイヤーな感じを実現している。
画面を見ると、お父さんからの着信だ。
恐らく、就活はどうなってんのかとかどうでもいい話だ。で、うまく行ってないなら大学院に進んで自分のように博士を取れとかめんどくさい話をされるのはわかっている。いずれにせよ、早すぎる。GW中に朝7:00に電話かけるのは若者いじめだよ。と思いながら華麗にスルーして二度寝の体制に入る。
ヴーヴヴー…ヴーヴヴー…
今度こそアラームの音だ、今日は午前中に塾講のバイトがあるから早めに起きないといけないのだ。実際は必要以上に早く起こされてしまったわけだが…。
猫かよ、ってくらいの伸びをしてベッドから起き上がる。都内の学生にしては広めの8畳のワンルームには、GW前からほったらかしになっている楽器と楽譜が転がっている。楽譜の下に埋もれているかもしれないゲーム機を記憶を頼りに躱しながら、朝飯を探しに冷蔵庫に向かう。
いつか買った記憶がちょっと怪しい菓子パンを見つけ、カビでないことを確認してから牛乳をコップに注ぐ。
ここまではとても順調。バイトが始まる9:30に間に合うためには、8:45までに駅に行けばOK.着替えして歯磨きして…ギリギリだけどまあ間に合うだろう。
塾講師らしくスーツに着替え、駅へ向かう。と、ここまでは良かったのだが、駅につくと、改札前に人が溜まって電光掲示板を見ている。どうやら人身事故のようだ。改札横でいつ動くんだと周りに響き渡る声で叫んでいるおじさんがいる。連休でどっか遊びに行く予定でもあったのだろうか。そういえば昨日も人身事故の影響で電車が遅れてるとか言ってた気がするな。これが5月病ってやつなのか。連休明け仕事に行くのが憂鬱なのは想像つくが、電車に飛び込む勇気があるなら会社にもいけそうなきがするな…。
と思いながら、穂高は脳内の時刻表を検索する。6分以上電車が遅延したらミーティングに遅刻してしまうはずだ。一応早めに事務所に電話をかけておこう。
電話をかけると、連休中の朝イチにも関わらず事務所のおばちゃんが普段より3度くらい高めの声で電話を受けてくれた。
「あ、もしもし、講師の東雲ですけど、齋藤先生いらっしゃいますか?」
「齋藤先生ですか?今日はおやすみですけど?」
いや、そんなことはない。前回の勤務のときに、次回は同じ日に出勤で、僕と齋藤先生で連続で同じ学年を見ることを確認したはずだ。
「齋藤先生、ひょっとして体調不良ですか?」
「いいえ、もともとお休みの予定ですよ?」
いよいよ謎だ。まあでも一旦謎解きは後回しだ。
「すみません。電車が遅れていて、ミーティングに間に合わなさそうなんです。」
「わかりました。誰かに伝えておきますね。…でも、東雲先生今日授業ありましたっけ?明日から授業あるみたいですけど。」
なんだと、5/4にバイト入れたと思っていたが、5/5の間違いだったのか?やってしまった。8:00に起きる必要さえなかったのか…
「あれ、失礼しました。ではまた明日よろしくお願いします。」
電話を切りながら思った…あれ、待てよ、だとすると明日の謎解きイベント行けないってことでは?学科の清水と竹中を誘ってしまったが、ごめんなさいしなければいけないのでは?いや、開始を2時間遅らせてもらえばワンチャンいけるかもしれない。昼過ぎからみんな起きてるだろう、電話してみるか。
と思いながら、改札を出て家に戻る。幸い、電車が止まっているからと言ったら無料で改札を出してもらえた。時間は無駄になったが電車代は無駄にならずにすんでよかった。
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