【第四十五話】結束(前編)
気が付くと、ウェントゥスは実家の自室で横たわっていた。彼はゆっくり起き上がって状況を整理してみた。「月影」に溜め込んだ力を放ったところまでは覚えているが、どうもその後が思い出せない。
「ウェン!」
様子を見にきた母が安堵の表情を浮かべている。
ウェントゥスはどうやら二日間ずっと深く眠っていたようで、その間に起こったことを彼は母から聞かされた。
「皆は復興作業に。そして、ルナはどこかへと行ってしまった、と。」
「けど、ルナさん、呼ばれたらすぐに来るって言ってたわよ。ふふふふ。」
「まあ、うん。とりあえず…飯だ!」
ウェントゥスのその発言と共に、彼のお腹が鳴る。二日間何も口にしていなかったのだから当然である。
ウェントゥスが久々の母の手料理をたらふく食べ終わる頃、父が帰ってきた。彼はかなり疲労困憊な様子だったが、ウェントゥスが元気になっているのを見ると安堵した表情を浮かべた。一方、そんな父のことが気になって、ウェントゥスが伺ってみると、父は次のように話してくれた。
*
当たり前だが、戦の被害は央の国が最も大きい。特に人的被害が深刻で、各国から支援を受けながら、全日体制で復興に割いているとのことだ。因みに、ストームウォーカー家は領地の半分近くが瓦礫と化し、多くはないが死傷者も出たらしく、(国の人材担当故に)応接不暇のシルフィを気遣って、前当主が音頭をとって事後対処に当たっているそうだ。
そして、国が今一番力を割いて対応している問題は食料だという。
島の土地の性質上、農耕地を開けない央の国は、島を囲う湖に隣接する地域を埋め立てて農業や畜産を行なっていたため、此度の戦いでその土地の大部分で作物や家畜が全滅、および土壌汚染が起きたことで、この先待ち受ける食糧不足への対応もしなければならないそうだ。
このように、戦傷者の治療、戦死者の同定や、遺族の心のケア、破壊された街の再建などの戦後処理に加え、こうした深刻な状態も相まって、問題が山積みらしい。
*
ウェントゥスの両親も復興に駆り出されているとのことで、彼はそれらを聞くと、早速明日から自分も復興の手伝いに参加することに決めた。両親は彼の体が心配だったが、一旦決意したことは簡単に曲げない彼の性格からして、必要以上に異議を唱えることはしなかった。
翌日の朝早く、ウェントゥスは両親とともに央の国の復興統括本部へ向かっていた。
道中、復興のために央の国に来ている他の国の人々にも出会い、彼ら全員がウェントゥスを英雄のように敬った。ウェントゥスは気恥ずかしさを感じながらも、それぞれに挨拶とお礼を返していった。
やがて、本部に到着した彼はもっと丁重な接待を受けることとなる。一国どころか、虹の大陸を救った英雄として扱われたのだから無理もない。それに対して、ウェントゥスはお礼を言いつつ、此度の戦を乗り越えることができたのは多くの方の尽力があってこそだと謙遜した。敵の大多数は虹の大陸各国の軍やルナによって倒されており、3体の四天王はいずれもウェントゥス以外の者たちによって倒されていたので、自身がこれ程持ち上げられることではないと考えていた。
そんな中、
「何言ってるの!戦況を変えたのも、親玉を倒したのも貴方でしょ!」
背後からリディアの明るい声がした。振り向くと、いつの間にかそこには見慣れた面々がいて、皆うんうんと頷いている。
「ルナさんから色々聞いたよ。君が体を張って、島で四天王の1体を打ち破ったおかげで、我々も残りの四天王を倒すことが出来たんだって。道理で敵に関する指摘が的確だったわけだ。」
続けてヘリオスがそう言うと、皆は再び頷いた。
どうやらウェントゥスが寝ていた間に、皆はルナに色々尋ねたらしい。ということは…、とウェントゥスが考えていると、
「皆に内緒で、あの綺麗なお姉さんと一緒にすごい特訓をしてたそうじゃない。」
多忙ながらもこの会話は外せないのか、シルフィが奥から顔を覗かせながら揶揄ってきた。自ずと皆して笑いが溢れ出る。どうやら以前のことも洗いざらい聞き出されたようだ。そこへ追い打ちをかけるかのように
「親友の私にさえ隠すなんて、君も人が悪いなぁ。」
風雲が悪ノリすると、笑いが更に大きくなった。
(学院時代に見慣れた光景だな…)
ウェントゥスも思わず笑みを零した。
央の国の被害状況は決して笑えないものだが、ここへ来る途中や、今この場にいる皆を見て、ひとまずは大丈夫そうだと彼は感じた。そんなウェントゥスの心中を察してか、
「貴方の貢献には敵わないけど、私たちも私たちなりに力を合わせて、できる限りのことをする。だから、頼れるところは遠慮なく頼ってね!」
リディアが真剣な眼差しで言うと、皆も一旦笑いを止めて頷いた。ルナから島での戦いの一部始終を聞いた皆は、今回彼が意識を失ったのは無理が祟ったからだと考えていた。
そんなリディアや皆の思いを受け取ったウェントゥスは、何だか肩の荷が降りた感じがしたのか、思わず目を潤ませながらも、
「ああ、是非そうさせて貰うよ。」
と、笑顔で誤魔化しながら返した。何はともあれ、もう普通に動けるようになったということで、ウェントゥスは皆と一緒に復興作業に勤しむのであった。
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