【第十六話】莫逆

 微妙な後味の悪さを残しながら、神器の儀は閉幕した。なお、伝説級神器を得た者たちはそれぞれの神器からその名前を授かった。へリオスの槍は「ウーラノス」、シンシアの腕輪は「ガイア・コア」、リディアの短剣は「イクシード」、シルフィの一対の双剣は「シルフィード&ウンディーネ」、そしてヴァルナの指輪は「源流」である。


 その晩、祝賀会が開かれたが、風雲は代表としての期待に応えられなかったので、他の神器獲得者たちに一通り祝辞だけ送ると、会場に赴くことなく帰路に就いた。思いがけなかったのは、ウェントゥスが追いかけて来たことである。



 ウェントゥスと風雲は一緒に夜道を歩いていた。気まずい空気なのかと思いきや、二人して談笑している。思えば、この二人だけで行動するのは珍しいことだが、都合がいいことでもあった。ウェントゥスと風雲は共に互いの力に興味を持っており、いつかじっくり語り合うことがあればと考えていたからだ。今夜がその機会だと考えたのか、

『そのチカ…』

二人して同時に言葉を発した。互いに同じ考えだったのと妙にタイミングが合ったことにウェントゥスと風雲は揃って大笑いした。


 二人は外で簡単な夕食を済ませると、ありったけの夜食を買い込んで、風雲の部屋へと向かった。


 暫く雑談の続きをしていたが、話の流れでウェントゥスが風雲の「暗黒の力」について尋ねると、彼は自分の出自と共に話してくれた。


 自分(風雲)は生まれながら毒属性の祝福を受けたわけではなかったらしい。母はもともと紫家本家の長女で、楽来の妹に当たる。その母が二十歳の時に、前触れもなく自分を身篭ったのだという。


 当時交際相手もいなく、母自身も身に覚えがなかったため、紫家は大きな騒動になったらしい。ただ、母は折角授かった命だからと産むことを選択したという。勿論、父なし子なんていうのは本家の面子に関わる問題なため、母は分家に下ることを選択し、本家には迷惑をかけないという条件を自ら提示した。しかし、問題はそれだけでは終わらなかった。


 自分(風雲)は生まれてすぐ、塒を巻くような黒き力を有していたのだそうだ。それは毒属性の祝福を退けるほどのもので、おかげで毒属性の力を有することはなかった。


 勿論、気味悪がった紫家は母を含めた処遇について大家族会議を開くことになったが、叔父(楽来)の強い要望で残留が決まったらしい。


 そして自分(風雲)が1歳を迎えた頃。楽来が見出した毒の秘術を用いて、彼の力の半分を自分(風雲)に植え付け、黒き力を抑えたのだという。つまり、自身が今有する優れた毒属性の力は叔父のものというわけである。


 兎に角、ある意味、叔父が父親以上のことをしてくれたことから、「風雲」という名前は、紫家の中で頭角を現す存在という期待を込めて、母からお願いされた叔父が付けたものとのことだ。


 話を聞き終えたウェントゥスは、以前感じ取っていた、風雲と楽来との間の特別な繋がりの謎が解けたのと同時に、自身に近い境遇を持つ彼に親近感が湧いた。ふと、いくつかの疑問点が頭に浮かんだ。

「毒の力で黒き力を抑えていたっていうけど、実技試験の時その黒き力の技を使ってたよね?それはどうやって?」

そうウェントゥスが尋ねると、毒の力を高めていくうちに少しずつ自分の黒き力を制御できるようになったのだと風雲は教えてくれた。


 毒と木の属性は内的作用に影響するものが多いため、これらの属性の力を高めることは自ずと自分の中の力の制御の助けになったのだろうとウェントゥスは理解した。因みに、少しずつ黒き力を開放し練るようになっても、その力の「底」が見えなかったため、「暗黒の力」と名付けたらしい。


 ここまで聞くとウェントゥスは神器の儀でのことを思い出したのか、思い切って確認してみた。

「ってことは、神器の儀の時、紫の光の球が反応したのにも関わらず君の暗黒の力が拒否したから、何も具現化しなかったんだね。それってもしかして意図的だった?」

ウェントゥスは、風雲は自身の「暗黒の力」を抑えることで、伝説級の神器を得ることもできたと考えていた。それなのに敢えてその力を抑えずにしておいたということは、そもそも風雲は毒属性の神器を得るつもりがなかったのではないのかと推察した。

「見抜かれてしまったか。敵わないね。そう、君の推察通り、私は毒属性よりも本当の自分の属性の神器が欲しかった。一か八かに賭けてみたんだけど、やはりというか、この力は虹の大陸のどの属性とも相入れないことみたいだ…。代表に選んだくれた国には本当に申し訳ないと思っている…。」

風雲は申し訳なさそうに答えた。


 ウェントゥスは風雲の心中を察しながらも、大陸外のことなら、もしかすると開拓調査隊が何かしら知っているかもしれないから直接話を聞くか、或いはどうにかして記録書を読めるようにしてもらうか、という前向きな提案をした。そんなウェントゥスなりの気遣いに、風雲はお礼を言うと共に、その提案に賛同した。


 今度は、風雲がウェントゥスの力について尋ねたので、ウェントゥスは同様に出自のことや、どうやってそれを引き出すまでに至ったのかなどについて話して聞かせた。


 話の途中から、風雲は似た境遇を経験したウェントゥスに対して更に親近感が増したのと同時に、彼が今日までに歩んできた道は、並大抵の人間には到底成し得ないレベルの努力の上に成り立っているものだと知り、尊敬した。


 風雲はウェントゥスにその意を伝えると、ウェントゥスはお礼を述べながら、

「勿論、自分の力だけじゃないよ。何だって師に恵まれているからね。」

と謙遜し、自分の基礎・基盤を築いてくれたシルフィや両親をはじめ、七星学院の先生がた、師匠のへリオス、リディアや風雲といった学友など、自分の周りには自分にない優れた才能を持った人が多くいて、何らかの形で学んで応用したり、それ自体が刺激になったりして、自身の力の扱い方の向上や技の閃きに繋がるのだと話した。それを聞いた風雲は、ウェントゥスのような人物と同学になれたことを心の底から喜び、もっと彼のレベルに近づけるよう努力することを心に誓った。


 その後、二人は互いの力だけでなく、召喚石のことも含め色んなことについて意見を交わしたり、語り合ったりした。そして、気が付けば、外が明るくなり始めていた。ウェントゥスと風雲、双方ともこれほど誰かと語り合ったことはこれまでになかったこと、互いに似た境遇だったと知ったこともあり、二人の間には強い絆ができ始めていた。


 別れ際、ウェントゥスは何かを思い出したかのように、風雲に一つ頼み事をした。風雲は何故ウェントゥスがそのような頼み事をしたのかよくわからなかったが、近々役に立つという旨の彼の言葉に快くそれを引き受けた。

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