【第六話】共闘(後編)
心配した通り、状況的に芳しくなくなってきたのを観戦者たちは不安な視線で見守る中、ウェントゥスだけは何かのタイミングを待っているのか、レッサーキメラを観察していた。
そんな彼に向けた不満の言葉も次第にちらほら聞こえてきた。そんな中、それに追い打ちをかけるかのように、ついにキメラが溜めていた瘴気弾を放ってきた。それが炸裂する性質を有していることからして、着弾したら最後、体を蝕む瘴気が辺り一帯を包むだろう。
観客席は防壁で守られているので、問題はないだろうが、ウェントゥスたちの安全は保証できない。だが、そんな周囲の心配をよそに、このタイミングでウェントゥスが素早くリディアと風雲の前に飛び出て、両手を前方にかざした。
『!?』
何ということだろうか、瘴気弾はウェントゥスに当たるか当たらないかの距離で忽然と消失してしまい、代わりに、彼の後ろに無数の紫色に輝く粒子を漂わせた。
観衆たちが静まり返った。皆して何が起きたのか全く理解できていない様子である。当の学長もウェントゥスに向けて目を見開いたまま、少しばかり思考が止まっているように見えた。
「危ない、危ない。」
ウェントゥスはそう言うと、リディアと風雲の方を一瞥した。二人も何が起こったのかわからなかったが、ウェントゥスのおかげで瘴気弾を食らわずに済んだということだけは理解したようだ。そんな中、キメラは既に2発目の瘴気弾を放とうとしていた。
「キメラの攻撃を無力化するから、最高の攻撃を頼むよ、お二人さん。」
ウェントゥスはそう言うと、再び両手を前方にかざして、精神を集中させた。一方のリディアと風雲は漠然としてはいるが、何故かウェントゥスを信じてみてもいいという思いが芽生え、互いに簡単に示し合わせながら、各々が習得している最も強力な技の準備に取り掛かった。
リディアの全身から黄色いオーラが出現したかと思うと、次第にその色は青緑色に変わっていった。どうやら風の力と雷の力を織り合わせて、雷の力を更に高めているようだ。一方、風雲からは前日感じた凄まじい何かが解放され、それが練られていくのが見えた。その間、2発目の瘴気弾が先ほどと同様にウェントゥスの手前で消失した。だが、その光景はキメラを戦意喪失させるどころか激昂させてしまった。
「ここからが正念場だな!」
ウェントゥスは気合を入れ直した。
ウェントゥスが全身を包む力を再び自身の前方に展開させたのと同時にキメラから、獅子頭の火炎光線、山羊頭の破壊音波、毒蛇の猛毒液攻撃が一斉に飛んできた。ウェントゥスは手前に強い衝撃を受け止めながらも、これら攻撃を全て打ち消し、自身の背後に色鮮やかに光る粒子を漂わせた。しかし、尚もキメラは攻撃を止める気配がなく、まるで激昂によって力の制御が効かなくなっているかの如く攻撃をさらに激化させた。
ウェントゥスは引き続き暴れるキメラの動きに合わせながら何度か体当たりなどの物理攻撃を受け止めたり、属性攻撃を無力化させたりと盾役をこなしていたが、力の消耗も尋常ではなく、おそらく次の全力攻撃を防ぎ切れるだけの余裕がなくなってきた。
(これが上位八段級召喚獣の強さか…っ)
と、開始前の軽口を後悔し始めていたその時、
「暗黒裂空!」
風雲の声がした。その声と同時に、キメラの周囲に黒く歪んだ時空の亀裂が生じたかと思うと、それはキメラから力を吸い取り始めた。それにより、キメラはあらゆる攻撃を強制的に止められ、結果的に動きまでも封じられてしまった。そこへ、急に天空に暗雲が立ち込めたかと思うと、
「ドーンハンマー!」
今度はリディアの声と共に、雲が青白く光り、轟音と共にキメラの体が丸ごと収まる太さの青緑色の雷柱が降り注いだ。キメラが雄叫びをあげたのも虚しく、間も無く雷柱の中で消失した。
再び静寂が戻った時、3人はもうクタクタになって、その場に座り込んでいた。キメラがいた場所には
次の瞬間、会場中から一斉に大きな歓声が上がった。もはや学生、教員問わず、殆どの観戦者たちは実技試験だということも忘れ、手に汗握る一戦を見せつけられたかのような興奮ぶりである。勿論、シルフィもその一人だ。
「ふむ。これは順位つけ難いな…」
そう口を開いたのはアルイクシル学長である。
「彼らは初対面ながら見事なチームワークで、強力な召喚獣を完膚なきまでに負かしたのね!」
感激しているシャーンティ副学長が続いた。
学長が座り込んでいる3人のもとへと歩み寄り尋ねた。
「3人とも見事だった。さて、こちらでは順位をつけ難いのだが、3人の中で誰が1位か、意見はあるかね?」
リディアが二人の顔を見てから、学長の方を向き、
「私がトドメを刺しました。けど、風雲君の技による弱体化がなければ成し得なかったし、ウェントゥス君がキメラの攻撃を防いでくれなかったら、そもそも技を発動することすらできなかったので、1位は私ではありません。」
と答えた。それに続くように、
「キメラの動きと攻撃を封じ込めることができましたが、トドメを刺したのはリディアさん。それに、そもそもウェントゥス君がキメラからの熾烈な攻撃を一身に請け負いながら、且つ対象の力を消耗させていなければ、拘束は不可能だったと思います。ですので、同じく私も1位ではありません。」
今度は風雲が答えた。
自ずと全員の視線がウェントゥスへと向けられる。
「いやぁ、自分は攻撃を防いだだけだしなぁ。この二人がいなかったら倒すことなんてできなかったよ。だから自分も1位だなんて名乗れないや。」
と、ウェントゥスは少しばつが悪そうに答えた。
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