【第四話】出逢い(後編)

 翌日、まだ夜が明けぬうちにウェントゥスは肌寒さで目が覚めた。どうやら昨晩瞑想したまま眠ってしまったらしい。不思議と冴えていたので、二度寝をするのも何だかと思い、体調を整えるために練気を始めた。


 暫くすると、不思議と自分の中の力が少し増大するのを感じた。しかし、オーラを出現させても特に変化は見受けられない。ウェントゥスは少し首を傾げつつ、実技試験に向けて気持ちが昂っているせいで錯覚でもしたのかと、あまり深く考えないことにした。


 やがて、のんびり朝食を終えたところで、何やら学院内でざわつくのが聞こえた。もしかして筆記試験の合格発表かと考えていると、誘導係の教員がやってきて受験者全員に集合をかけた。



 教員に連れられて学院正面の広場に行くと、果たして掲示板の周りで大勢の学生や教員がざわついていた。

「今年の筆記試験、合格者たったの3人?」

「というか、トップは満点!?もしかしてリディアちゃんか!?」

「今年は何だかすごいことになっているね。」

などの声が聞こえてきた。ウェントゥスは受験番号を確認しに行ったところ、どうやら満点は自分だったようだ。そんな中、

「ウェン君?」

懐かしい声がした。思わず声の方に振り向くと、そこにはちょっと心配そうな顔しているシルフィの姿があった。4年ぶりに会う彼女はちょっと大人の女性っぽくなっており、15歳の頃の印象しかなかったウェントゥスはそれに見惚れていたのと同時に、彼女が自分を忘れたわけではないと安心した。

「今年なんだかすごく筆記試験が難しかったみたいで、合格者が3人しかいないの…」

シルフィの心配そうな声で再び現実に引き戻されたウェントゥスは少し笑って、

「1位は俺みたいだね。へへっ。」

と、悪戯っぽく返した。いつぞやの逆現象だろうか、その一言にシルフィは脳天に衝撃を受けた。当時可愛らしい弟のような少年と、満点発言している目の前の少年がどうも一致しないという錯覚に襲われたのである。


 周りの学生たちはその一言に一瞬シーンと静まり返った後、再び騒めき出した。

「おい!あいつってまさか色無しって言われていた…!?」

「シルフィ先輩との関係を見ると、そうみたいね。」

などと聞こえてきた。教員たちの視線も同様にウェントゥスに集まってくる。

「こいつが満点って本当か?」

「噂だとシルフィさんから色々教わっていたって聞いたけど…」

周りの話し声をよそに、シルフィがウェントゥスに歩み寄った。

「1位って、本当?」

そう尋ねたシルフィに、ウェントゥスはニヤニヤしながら自分の受験票をシルフィに見せた。彼女が目を見開いた様子に周りのざわつきは一層大きくなっていく。


 シルフィは驚愕しながらも、顔から心配の表情が一気に消え、笑みが溢れた。しかし、またすぐに真剣な顔に改めると、

「この後実技試験だけど…」

シルフィは言いかけたことを飲み込んだ。ウェントゥスには彼女が何を言おうとしているのかわかっていたので、彼は少し笑って、

「どんな形になるかわからないけど、とりあえず心配せずに見ててよ。」

と返した。シルフィは衝撃と納得が同時に脳裏に生じた。ウェントゥスが悩みを抱えながらも明るく振舞っていたのを知っていたが、どうも今目の前にいる自信に満ち溢れている少年と同一人物だと俄かに信じられないようだ。その一方で、やはり何か力を見出したのだと確信した。

(4年で本当に凄く変わったね、ウェン君…)

シルフィは嬉しいような寂しいようなうまく言えない気持ちになっていた。


 突然、ウェントゥスの背後で明るい声がした。

「ねえ、貴方が1位の人?」

ウェントゥスが振り向くと、そこにはリディアと例の紫黒色の髪をした少年が立っていた。


 話を聞くに、どうやらこの二人が残りの合格者のようだ。前日までの眼中にない感じとはうってかわって、今この二人からは興味ありますと言わんばかりの熱い視線を感じた。そんな中、紫黒色の髪をした少年が口を開いた。

「古代錬金術に関する小論文あったけど、あれどうやって満点を取ったんだい?」

正直、採点基準を聞かれても回答に困るウェントゥスだったが、

「まぁ、いつか役に立つと思って、色々古文書とか読み漁っただけだよ。」

と、とりあえず軽やかに答えた。二人は一瞬「古文書?」みたいな反応をしていたが、紫黒色の髪をした少年はすぐに表情を正し、

「申し遅れた。私は毒の国、家の風雲フウウン。毒の国は、錬金術に関しては他国より秀でており、紫家はその毒の国の中で最も秀でていると自負している。そんな紫家の私でも出題者の満足いく答えを書けた自信はなかったのだが…」


 紫家は毒の国において王家と唯一肩を並べることを許されている一家で、毒属性の力が特段優れているのは言うまでもなく、錬金術と薬学に関する知識も大陸で一二を争うレベルとされている。ウェントゥスはそんな一族出身の風雲の話を聞いて、どうやら古文書に書かれている古代錬金術にまつわる真理に辿り着いた人は大陸中でもそれほどいないのかもしれないと考えた。一方で、少なくとも七星学院の中に、自分と同じように古文書に書かれているその真理に気が付き、試験作成に携わる身分の人物がいることを確信した。



 今年は筆記試験の合格ラインに達した受験生が3名しかおらず、募集人数内に収まっていた。しかし、どうやら例年と同様に実技試験を行い、順位を決定するらしい。一般教員と学生たちはそれを知ると次第に学内の闘技場へと移動していった。ウェントゥスたちも誘導の教員に連れられて闘技場へと向かうことにした。

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