45

 飾は木立家の前までやってきた。(途中の道で霰と会うことはなかった)

 少し待ってから飾は「お邪魔します」と言って木立家の中に入る。一階から階段を上がって二階にいって、霰の部屋のドアをあける。ドアは簡単に開いた。鍵はかかっていない。なら霰は部屋の中にはいないはずだ。飾が部屋の中にはいると予想通りにそこに霰はいなかった。部屋のベットの上にはぬぎっぱなしのパジャマが置いてある。ピンク色のうさぎの模様のある見覚えのあるパジャマ。それは霰のパジャマだった。(そのパジャマを着ている霰を飾は以前に見たことがあった)

 霰はもう出かけているようだ。東雲神社ではなくて、どこか違う場所に寄り道でもしているのだろうか? ……どうだろう? 可能性は低いと思う。霰は寄り道をほとんどしないし、今は猫の動物霊の呪いにもかかっているのだ。いつものように東雲神社にやってくると思う。それに飾と霰は今日東雲神社で会う約束をしていた。霰が約束をなにかの理由もなしにやぶるとは思えなかった。そう。霰は約束を守るのだ。なら、霰がどこにもいないのは、『霰になにかがあった』ということだ。

 飾は木立家をでると玄関の前で周囲を注意深く観察する。すると飾はあるものをみつけた。

 それは幽霊の通ったあとに残るかすかな気配だった。 

 飾は注意深くその気配を見ようとする。

 太陽の光の中で消えかかっているけれど、そこにはなにかがあった。道路の上。そこにはなにかがる。それはよくみると動物の足跡のようだった。猫の幽霊の足跡だ。その足跡を見て、飾はすべてを理解した。飾はその足跡をたどるようにして、朝の町の中をゆっくりと歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る