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飾は少しだけ開けたドアの隙間から顔だけを部屋の中にだしている霰のうしろから霰の姿を観察していた。霰にはまだ頭に猫の耳があった。でもそのことを樹も奈緒という樹の恋人もそのことについてなにも話したりはしなかった。(本物だとは思わなくても、猫耳のアクセサリーでもつけているの? とかそういう言葉はでてくるはずだと思った)それはつまり部屋の中にいる二人には『霰の動物の猫の耳』がみえていないということだった。では、霰本人にはどうだろう? とそんなことを飾は思う。
飾のところからだと樹の部屋の中に鏡があるのかどうかわからなかった。もしあったらそこに映っている自分の顔を見て、もし霰にも自分の動物の猫の耳が見えるのだとしたら、霰は絶対に驚くはずだと思った。(今のところ、そんな様子は霰にはなかった)
「霰。いつまでもそんなところにいないでさ、部屋の中にきなよ」と妹大好きの樹が言った。
「そうだよ、霰ちゃん。こっちきなよ。樹なんてほおっておいて、私と一緒にお話ししようよ」と奈緒は言った。
でも、樹や奈緒にそう言われても霰はそこから動こうとしながった。
それから少しして「自分の部屋に戻るね」と(小さな声で)言って、そっと顔をひっこめると霰はドアを音もなく閉めた。
「……初めてだし、緊張してたのかな?」樹を見て奈緒は言う。
「そんなことないよ。霰はいつもあんな感じだよ」と樹は言った。
霰は廊下に戻るとこそこそと隣の自分の部屋のドアの前まで移動して自分の部屋の中に入っていった。そのときずっと霰を観察していた飾はいつのまにか耳だけじゃなくて、霰のおしりのところにぴょんとデニムのスカートから生えるようにして今度は『動物のしっぽ』がはえていることに気が付いた。その動物のしっぽはどうやら猫のしっぽのようだった。(耳と同じ毛並みと黒色をしたしっぽだった)飾はゆれているしっぽをみながら霰について部屋の中にいく。
霰は無言のまま自分のベットの上に座り込んだ。「はぁー」と大きなため息をつく。飾はそんな霰の様子をじっと見ている。
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