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「ねえ、八坂。幸せってさ、なんだと思う?」そんなことを樹は言った。
「え? 幸せ」奈緒は顔を赤く染めながら言う。
「きゅうにどうしたのよ? 幸せ。うん。幸せね。そうだな。やっぱりさ。それは、その……」奈緒は言う。
「好きな人と一緒にいる、とか?」と奈緒は言う。
「好きな人と一緒にいることができれば幸せか、なるほどね」と樹は言う。(奈緒はちらっと樹の様子を見る)
「それはわかる気がするよ」と奈緒を見て樹は言う。
「え? 本当に?」と驚いて奈緒は言う。
「うん。本当に」とにっこりと笑って樹は言う。(奈緒はびっくりする)
あのどんかんな樹がと思う。恋に興味がないと思っていたけど、そういうことではないのかもしれない。奈緒は思わず(うれしくなって)少しだけ座る位置を動いて樹にちょっとだけ近づいた。(無意識に)
「……霰。なにしているの?」
霰のあとについて、とんとんと階段を上がってきた飾はドアに耳を当てている霰を見つけてそう言った。
「し、静かに。飾」と飾を見て小声で霰は言った。
「踏み込むんじゃなかったの?」
霰の横にかがんで飾は言う。
「もう少し様子を見る」と(ドアに耳をつけたまま)霰は言った。
飾は霰と同じようにドアに耳を当てて部屋の中の様子をうかがってみる。それでなるほど。と思い、霰が様子をみている理由がよくわかった。(霰もお兄ちゃんの恋の邪魔を本気でするつもりはないらしい)
飾がそんなことを考えてにやにやとしていると、ふと飾は霰の頭の髪の毛の上になんだか奇妙なものを見つけた。うん? あれはいったいなんだろう? と思い部屋の中に意識を向けている霰の頭を上から見てみると(ちょうどドアの持ち手の下あたりに霰がその少し上のところで飾がドアに耳をくっつけていた)それはどうやら『動物の耳』のようだった。髪の毛からそのまま飛び出すようにして二つの三角形をした動物の耳が確かに霰の頭の上にはあった。(ついさっきまではそんなものはどこにもなかった)形から推理するとたぶん猫の耳だと思った。(きつねやたぬきの耳ではなかった)黒い毛の猫の耳。その動物の耳を見つけて、飾は樹の恋どころではなくなった。
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