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「人はね。みんな自分の死を経験することはできないんだ。だから死を本当に理解することは誰にもできないんだと思うんだよね」ぼんやりと青色の空を見ながら飾は言った。

「でもさ、飾は、……その、自分の死を経験しているんじゃないの?」と霰は(ためらいながら)言った。

「うん。そうだな。……これぐらいは言ってもいいかな? まずその答えは『違う』だよ。ぼくは『自分の死を経験していない。体験もしていない』んだ。だから幽霊のぼくにもさ、死っていうものがどういうものなのか、知ることはできないんだ」と飾は言った。

 その飾の言葉を聞いてそれってどういう意味だろう? って霰は思った。でも聞いてもたぶん教えてくれないだろうから(教えてくれるなら聞く前に話してくれるはずだと思った)そのことを聞くことはやめることにした。

「もうこのお話はやめよう。もっと楽しいお話をしようよ」と飾は言った。

「わかった。それじゃあお腹が空いたからなにか食べたい。一緒に家まで行こうよ、飾」と霰が言うと「喜んて。お招きどうもありがとう」と、ふふっと笑って飾は言った。

 霰が飾と一緒に「ただいま」(お邪魔しますと飾は言った)と言って木立家に帰ると、家の中がいつもとは違ってざわついていた。なにかあったのかなと思ってお母さんに聞くと「あ、霰帰ってきたんだ。あのね、聞いてよ。樹がね、今、彼女を連れてきているの。すごく可愛い子なの。絶対にびっくりする」と楽しそうにお母さんが言った。

 その言葉を聞いてお兄ちゃん大好きな霰はすごくびっくりした。あのお兄ちゃんに彼女がいるなんて信じられないと思った。それはきっとなにかの間違いだろうと思った。

「どうする? 確認しにいく? それともお邪魔しないでそっとしておく?」お母さんに似た顔をして飾が言った。

「確認しにいく」とすぐに霰はそう言って、階段を駆け足でのぼり始めた。

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