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 飾は驚いた。(でもその驚きを顔には出さないように努力した)

 幸いなことに霰はいつものお気に入りのファション雑誌を読んでいたから飾の様子を見たりはしていなかった。

「きゅうにどうしたのさ? そんな変なこと聞いたりしてさ」と明るい口調で飾は言った。

「うん。なんだか気になっちゃってさ。死ってさ。なんだかよくわからないんだよね。あ、もちろん意味はわかるよ。わかるんだけどさ、もっと深い意味があるんじゃないかって思うんだよね。私の知らないもっと深い意味がさ」

「深い意味?」

「うーんとね。難しいな。私もうまく言葉にできないんだけどさ、なんて言うか、私の知っている死はさ、もしかしたら本当の死じゃないのかもしれないって思うときがあるんだ。私は知っているようで死ってものを全然知らないんじゃないかなって疑問に思ったりするの」と本から顔をあげて飾を見て霰は言った。

「飾に出会ってさ、幽霊がこの世界には本当にあるんだってことがわかってさ、同時にああ、私は本当にこの世界のことをなにも知らないんだなって思ったの。もちろんそれは私があんまり真剣に学校の勉強をしていないってこともあると思うけどさ、たとえ勉強をちゃんとしたとしてもわからないことがある。教科書には載っていないことが世界にはいっぱいあるんだなってそう思ったんだよね」霰は言う。

「それはいいことだと思うよ。学校の勉強はとても大切なことだけどそれだけじゃ足りないんだよ。もっとたくさんのことを学ばなければいけない。それはその通りだと思うよ。でもさ、死について深く考えることは少し違うと思うな」飾は言う。

「どう違うの?」

「そうだな。ぼくたちにはまだそのことを深く考えるのははやいってことかな? そのことについて考えるのはもう少しさ。大人になってからでもいいんじゃないかな?」と飾は言った。

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