28
目を開けると、そこは東雲神社の鈴の下のところだった。(幽霊の黒猫を霰がしっかりと捕まえた場所だった)
そこに黒猫の姿はない。でも代わりにそこには飾がいた。東雲飾はそこにいて、そこからしっかりと霰のことを見つめていた。
いろいろと言いたいことがあってのだけど、飾の笑顔を見ているとそれもどうでもよくなってしまった。(もちろん、いきなりなにも言わずにいなくなってしまったことについてはどんな理由があるにせよ、どこかでちゃんと怒るつもりだったけど)
それよりも、なんだか安心してすごく眠たくなってしまった。
霰はふぁーととても大きなあくびをした。(そんな霰をみて飾はくすっと楽しそうに笑った)
「霰。眠っても大丈夫だよ。ちゃんとさ、君を迎えにきてくれる人がもうすぐ近くまできているからさ」と飾は言った。
飾の言葉をきいてそれはきっとお兄ちゃんのことだと思った。
「わかった。じゃあ、少しだけ眠るね。でもさ、飾。飾はもうどこにもいかないよね。眠ってさ、起きたら、また飾がいなくなってしまうなんてことはないよね?」と不安そうな顔をして霰は言った。
「ないよ。絶対にない。約束する」と霰の手をぎゅっと(今度は本当に触れ合いながら)握りながらそう言った。
「本当に?」飾の手をしっかりと握り返しながら霰は言う。
「本当だよ。本当に本当」と飾は言った。霰はそれでもすごく心配そうな顔をしている。(一人でお留守番をたのまれた子供みたいな顔だった)
「会いにいくよ。今度はちゃんとぼくから霰に会いに行く。霰がぼくをみつけてくれたようにさ、ぼくが霰をみつけてみせる。約束する。だからぼくを信じて待っていて」
「うん。わかった。寂しいけど。まってる。でも、絶対だよ。約束だからね」と目を赤くしながら霰は言った。
「ありがとう。霰」飾は言う。
「君に会えて、本当によかった」
飾の体が不思議な淡い優しい光に包まれていく。あ、飾はこのまま消えてしまうんだと霰は思う。……でも、大丈夫。大丈夫なんだ。私たちは。だって、飾は約束してくれたから。私に絶対に会いにきてくれるって、私をちゃんと見つけてくれるって、そう約束してくれたから、大丈夫なんだ。そうだよね。……飾。
だから、霰は笑ってさようならをしようと思った。飾は大切な友達だから。笑顔でさようならがしたかった。(笑顔の自分の顔を覚えていてほしかった)
飾はそのまま優しい顔をして霰にばいばいと口だけを動かしてそう言って、たくさんの光の粒になって空の中に消えてしまった。
そんな飾を見て、霰はゆっくりと気を失うようにして、とても深い、深い眠りの中にひとりぼっちで落ちていった。
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