24
いつの間にか霰は飾の前に立っていた。
霰の目の前にずっと会いたかった飾りがいる。でも、そこにいる飾は霰の知っている幽霊の飾じゃなかった。ここにいる飾は飾の記憶の中にいる飾。きっと、幽霊になる前の『生きていたころの東雲飾』がいた。
霰は飾のもっている小さな箱を開けようと思った。箱を開けて、飾が世界を恨んでいる答えを知って、自分の力で、飾を助けようと思った。(だって、私と飾は友達だから)
そうすればもう一度、幽霊の飾に会えると思ったのだ。
でも、そっと伸ばした霰の手は飾のもっている小さな箱に届く寸前でぴたっと止まった。
それは飾の流した大きな涙が霰の手の上にぽたぽたと落ちてきたからだった。
箱に集中していた視線をあげると、飾は泣いていた。真っ赤な目をして、泣き続けていた。
あっ、ごめんなさい。飾。そんなにこの箱を開けることが嫌だったの? と慌てて霰は言った。
でもその霰の言葉は声にならなかった。なぜか口が動くだけで声はどこからも出てはくれなかった。それだけじゃない。霰はどうやら目の前にいる飾には、今の霰の姿が見えていないのだと、気が付いた。ここに飾と霰がいると思っているのは霰だけで、飾には霰が見えていないようだった。飾は、今もひとりぼっちのままだった。
「……う、うう」
飾はうなるようにして泣いている。
飾はその場に座り込んでしまうとそのまま、嗚咽するようにして、丸くなってわんわんと大きな声をだして、泣き出してしまった。
そんな飾の前で、霰はなにもすることができなかった。飾に声をかけることも、飾にさわることもできなかった。(自分が今の飾に触れることができないと、きっと私の手は飾からすり抜けてしまうのだと、なぜか霰にはわかった)
霰は飾と同じように力なくその場に座り込んだ。それから、目の前で泣いている飾をただじっと見つめた。(見ることしかできなかったからだ)
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