12
いつの間にか霰は泣いていた。
どうして泣いているのか、自分でもよくわからなかった。でも、悲しかった。自然と涙があふれてきた。
それはまるで奇跡のような光景だった。
光ってる。淡くてあったかい光。私の手が光っているの? 霰の手の光はそこにいる子猫の体を包み込んでいる。すると子猫のことが霰にはなんとなくわかったような気がした。子猫の気持ちが霰に光を通して伝わってくるような感じがしたのだ。具体的な体験や記憶が見えるわけじゃない。言葉も聞こえない。でも感情が伝わってくる。……そうか。あなたは悲しいんだね。このあなたは君の涙。あなたの感情が、私に涙を流させている。つらかったんだね。さみしかったんだね。その感情が、あなたを悪い幽霊にした。周囲によくない感情を吐き出させていた。それが不幸を呼び込んだ。自分ではどうすることもできない感情が。あなたは怒っているの? 違うよね。もうやめたいんだよね。あなたはみんなの不幸を願っているわけじゃないよね。幸せになってほしいと思ってる。本当に。こころから。そう願っている。
お母さんを探していたら、いつのまにかにそうなっていた。心が真っ黒な色に染まってた。そうだよね。あなたは本当はとても優しい猫なんだよね。
ごめん。ごめんね。私はあなたのお母さんのことを知らない。お母さんになってあげることもできない。私にできることはここで泣いてあげることだけ。あなたのために。あなたといっしょに。好きなだけ。いままでためてきた涙が全部なくなるまで、泣いてあげることだけ。それしかできないの。ごめんね。
「にゃー」と子猫が鳴いた。
光はとても強くなった。とても、とても強くなった。もう目があけていられないくらいに強く輝いていた。その光がゆっくりと光のつぶのようになって、空に向かって飛んで行った。ゆっくりと登っていく。わたげのように。ふわふわと飛んでいく。そしてその光が全部なくなると、そこに迷子の黒猫の姿はどこにもなくなっていた。あの子は消えてしまったのだ。光になって。空の中に消えていった。まるで最初から、迷子の子猫なんてこの世界のどこにもいなかったかのように……。
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