10
「霰は家族のみんなのことを愛してる?」
飾はそんなことを急に言った。
「うん。もちろん愛してるよ。みんな大好き」とまっすぐな笑顔で霰は言う。(なんでこんなことをきゅうに聞くんだろう? と思いながら)
「じゃあ、逆にさ、家族のみんなは霰のことを愛してくれていると思う?」幽霊の子猫を触りながら飾は言う。
「愛してくれてる」自信をもって霰は言う。
「自分がちゃんとさ、愛されていると感じる?」
「感じる」
じーっと飾は霰を見る。それからふっと体から力を抜いたようんしてから笑うと、「そっか。うらやましいな」と飾は言った。
「いまのはなんなの? なにかのテスト?」霰はいう。
「まあ、そうだね。テストといえばテストかな? テストの結果は合格です。おめでとう。霰」と飾は言った。
霰はなんだかなっとくできない、といったような顔をしていたけど、「まあ、合格ならいいよ。じゃあ、さっそくさ、始めよう」そう言って霰は飾のふとももの上にいる子猫をみる。
「そうだね。はじめようか」子猫をしっかりと捕まえて飾が言った。
「この子猫に悪気はないんだ。ただ迷っているだけ。でもそれだけでこの子は周囲の人たちに悪い影響を与えてしまう。迷っている幽霊とはそういうものなんだ。その存在自体が悪い。それをこの子が自分でどうにかすることは絶対にできないんだよ」
神社の外では今も雨が降り続いている。気温は高くなってきたけど、霰は少し寒気を感じた。
「この子を救う手段はないの?」飾に抱かれながら自分を見ている霰に触れようとして前足をひっしに前に出そうとしている子猫を霰はじっと見ている。
「あるよ。それは霰の言う通り、霰にしかできないことだよ」
「私にしかできないこと」霰は飾を見る。
「うん。霰。この子を救ってあげて」
そう言って飾はゆっくりと抱いていた幽霊の黒猫を神社の境内の古い木の床のうえにはなして自由にした。
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