「悪い幽霊の嫌いなもの?」

「うん。例えばおまじないの呪文とか、あとはお守りとかさ、それに動物とか。色々あるでしょ?」

「悪い幽霊って動物が苦手なの?」メモをとっていた指をとめて霰は言う。

「そうだよ。動物には幽霊の姿がみえるからね。悪い幽霊には攻撃的になるんだ」霰が使っているパステルカラーのノートパソコンを珍しそうに見ながら飾は言う。

 二人は今、いつもの古い神社ではなくて木立家にある霰の部屋にいる。(そうしようと霰が言った)

 霰の家に招かれたとき、飾は少しだけ迷った。幽霊を自分の家に招く行為は、実はそれなりに深い意味がある行為だった。(それも、とても強制力のある、……力のある行為だ)

 そのことを飾は霰に言わなかった。(言ってはいけない、決まりになっていたからだ)そしてその招かれた家についていくかどうかは、幽霊がひとり、ひとり(動物霊の場合は一匹一匹)が個人の感情できめてよいとされていた。そして飾は幽霊の自分と友達になってくれた霰の家に行ってみたいと思ってしまった。思ってしまった以上、飾に選択肢はなかった。

 飾はよろこんで、と言って霰についていって本当に(……本当の本当に)久しぶりに住み慣れた神社を離れて、太陽の輝く明るい時間に街を歩いて(途中で散歩の途中の子犬に吠えられたりして)霰の住んでいる家にいった。

 霰の家(木立家)はどこにでもあるような普通の(住宅地にある)住宅だった。近くに大きな川が流れている青色の屋根の庭のない二階建ての家だった。大きさはそれほど大きくはない。この家に霰はお父さん、お母さん、中学生のお兄ちゃんと霰の四人家族で暮らしているらしい。

 神社から家まで歩いている途中の道で家族のお話をする霰は本当にうれしそうだった。きっと家族のことが大好きなんだな、と飾は思った。

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