第15話 まだ見ぬ未来

「帰りたい…」

 リーフは後悔していた。


 自分を庇い死にかけているシルヴァン…

 今朝脱獄し、魔王ヴェルギウスを激怒させている同期…

彼の心はボロボロになっていた。



「おまえ達…逃げる準備を…」

 身体がボロボロのシルヴァンがアイーシャに支えられながら指示を出していた。


アイーシャは隙を見計らってシルヴァンを救出していた。


「けどよ…」

 セリムはシルヴァンの指示に対して不満そうだった。


「セリム!おまえは死にたいのか!


 この場では俺含めてあの戦闘についていける者はいない!


 お願いだ!アギトの足を引っ張ってはならない!この国の為に…」


 シルヴァンは魔王ヴェルギウスとアギトのやり取りを見て確信した。

 自身ではもうアギトに敵わない事を…


「俺たちは…犯罪者に助けられるのかよ…」

 アゴンは不満そうだった。


 シルヴァンはその呟きに対して首をふった。


「アギトは犯罪者では無い…


 魔王の計画を阻止する為に自ら大犯罪を犯し監獄に入ったのだ…

魔王を油断させる作戦だったのだろう…


一人では行えない大犯罪を行う実力があれば、捕まらずに逃走は容易だったはずだ…


それが彼が敵では無いと唯一我々に送れたメッセージなのだ…」


 シルヴァンはアギトの行動を不審に思っていた。

 勇者候補というだけで信じられないほどの待遇を受けられる。


 それを断ってまで犯罪者になるメリットはなかった。


 だが魔王が激昂し、監獄の看守が失敗し消されたのを見て確信した。


 アギトが魔王の計画を読み、それを阻止する全てが彼の計画のうちだったということを…


「俺たちの国は、彼の助けがなければ今ごろ滅んでいる。」

 シルヴァンは断言した。もう理解できる範疇を越えている。


 王国最強の理解できない彼の様なモノを真の『勇者』と呼ぶのだと勝手に納得していた。


「へぇ。」

 シルヴァンを支えながら、アイーシャは舌で唇を舐めた。まるで品定めが終わったかのように…


 そしてセリムとアゴンは焦っていた。そんな救世主を煽りに煽った事を。

勝てない存在を怒らせたのでは?とヒヤヒヤしていた。


◇◇◇

「殺す!」

 魔王がそういうと言うことは、アギトは殺されるのだろう!


 つまりこの場での生存条件はもう魔王に勝つことしかない。


 幸いな事にアギトはまだ使っていない特技を残していた。

 彼自身も知らない特技『百鬼夜行』『修羅』が…



「だがな…小僧…我にもプライドはある。


 その左腕を見るに怪我をしているのだろう?治せ!


 それくらいの時間はくれてやろう。」


(魔王だからこその余裕か…)


ヴェルギウスはアギトに治療を促す。


「悪いな!生憎と俺に回復は効かない。


 この剣を握った時から、俺はもうこの体でやっていくことを決めた!」

 妖刀ムラマサの呪いのせいで、剣以外の補助は効かない。


 力強い目だった。覚悟を決めた人間の瞳。


 ヴェルギウスはその覚悟を決めたアギトを見てフッと笑う。


「では最後にこれから死に逝く貴様の名を覚えてやろう!」

 魔王は空中に魔法陣を複数展開しながらも、最後に情けをかけた。


それは敵に…唯一認められると思った人間への敬意…


「俺の名はアギト・ノアール。おま…」


 アギトが全て言い終わる前だった。


「そうか!アギトか…では死ね!」

 魔法陣からたくさんの魔法がアギト目掛けて飛ばされる。現実的な魔王の攻撃。


 アギトは魔王ヴェルギウスとの会話の間にずっと考えてた。

 どうあがいてもこのルートでは確実に『死ぬ』と…


 どう行動しても『死ぬ』。そう彼の経験が判断していた。


 だが幸いな事にまだ見ぬ可能性があった。『百鬼夜行』『修羅』


自身がゲームの中では知らなかった特技…


 そしてその先にある未来は未知数だった。


「見たいよな…まだ見ぬ未来を…」

 魔王ヴェルギウスの魔法を避けてアギトは呟く。


 魔法を一つ避けても次々と魔法が彼に向かって飛んでくる。

「見たいよな…推しの子クロエがハッピーエンドを迎える未来を…」


「だから俺は生き残る!そして必ず希望ある未来へ進む!」


「『妖刀ムラマサ』よ。契約だ!俺の全てを対価に力を寄越せ!」


 アギトは妖刀を天に掲げた。

特技『修羅』を発動した。



<カッカッカ…わらわをここまで興じさせるとは…面白い…面白いぞ>

 アギトに聞こえた声…それと共に妖刀が脈をうち始める。



<貴様の命を貰う。わらわに魅せてみろ!


 そして全てを切り裂く修羅の道を歩むが良い。>


 アギトの髪は白く染まっていく。

 この場を生き残る為に鬼神に全てを捧げることを決めたからだ。全てを奪われていく。


 アギトのHPの上限は1になる。

全ての体力を剣に…鬼神に捧げた。



 次々と来る魔王ヴェルギウスの無数の魔法攻撃。


それは無数の流星が地上へ降り注ぐかのように…

慈悲もなく、全てを殲滅する魔法…



「ふはははははは。我が魔法を喰らった者で生きていた者はいない!


 これが魔王ヴェルギウスの力なるぞぉ!」


 魔王ヴェルギウスは歓喜の声をあげていた。

絶対的な魔王の力…


 既にルイズの街は魔王の魔法により跡形もなくなっていた。


 この状況でアギトも生き残ってはいないとタカをくくる。


 魔王ヴェルギウスが次にアギトを見るときは、無惨な死体であろうと思っていた。


 が、違った。


「終わりか?」

 無数の魔法攻撃は土煙をあげていた。しかしその土煙も次第に晴れていく。


 魔王が魔法攻撃を止めていないにも関わらず…


 つまり魔法を何らかの手段で消滅させているのだ…



 彼の魔法攻撃を耐えて生き残ったのだ。白髪になりながらも余裕をまだ見せるアギトの姿が…


 額からは鬼のようにツノを生やし、顔にはアザの紋様を出す修羅の姿があった。


「次は俺の番な…」


 魔王ヴェルギウスが構えようとした時だった。

 一瞬で魔王ヴェルギウスに近づく。そして首を落とした。


 魔王に勝った。

 と本来であれば思うだろう。


「起きろよ。魔王ヴェルギウス。」


 アギトは疑っていた。このシナリオは本来は特別シナリオだ。

 そしてこのシナリオのゴーレムは倒しても再生する。


 ならば魔王ヴェルギウスも何らかの方法で再生するのだと。



「ほう…我の分身を殺すとはな…


 まさか…よもやここまでやりおるとは思わんかったわ…


だが既に準備は終わった。」


 アギトが空を見上げると、翼を生やした魔王ヴェルギウスがいた。


それも既に巨大な魔法陣を準備して…


「ならば我が最大の奥義をもって貴様を葬る事にしよう!


 我を含めた全てを滅ぼす極大魔法…


王都を含めた一帯を滅ぼす力…」


「アギトよ…選ぶが良い!

王都を見捨てて生き残るか、王都と共に死に逝くか…


禁忌術式!ブラックホール」

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プリズンブレイカー 〜転生初日に監獄にぶち込まれた勇者の逆転劇〜 社畜のクマさん @Mofufu

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