第12話 鬼との契約

(なんだろうな?この気持ちは?)

 一撃食らえばHPはゼロ…つまりこの世界での『死』を意味する。


不安な気持ちはあるが、内心ワクワクしていた。


「やっぱり巨大なロボットみたいにゴツくてカッコ良いな…」

 アギトはキングゴーレムの元に走りながらもにやける。



 EXシナリオの関係上、本来は救援要請を受けていたシルヴァンが同行する。

しかし今回はそれがない。つまりは彼が来るまでは死ねない。


アギト レベル16


 スキル

EX鬼の力 15/100

友情 -/100

知識 -/100


 特技

・鬼との契約


 本来このキングゴーレムの討伐推奨レベルは60~だ。


このシナリオの為に弱体化はしているがそれでも今のアギトには討伐レベルは足りない。


 だが幸いな事に、先程トロールの群れを倒した事でEXスキルのポイントが上がり、『特技』を手に入れた。


<ビュン>

 向かってくるアギトに気づいたのか、ゴーレムは人間より大きく重たい瓦礫を一つ飛ばして来た。



 当たれば『死』


<ドォン>

 幸いアギトに当たることは無かった。

遠くのどこかに飛んで行き、そこから破裂音が響く。


「えっ?」

 アギトには見えなかった。パラメータの素早さが足りないのだ。


 素早さは回避や攻撃速度の他に、動体視力という回避に関しての大切な役割を果たしている。


(こりゃ、手荒い歓迎だ…)


 ゴーレムが親切にこの攻撃が見えないならば去れ、と牽制をしているかのようだった。


「俺に今の攻撃を当てなかった事を後悔させてやるからな!」


 アギトはその場に立ち止まる。

 妖刀ムラマサを両手で握る。


「これを使うつもりはなかったけれどしょうがないか…


 ムラマサよ、俺の命を吸え。そして力を寄越せ!『特技・鬼との契約』」

 するとアギトの右腕に赤いアザの様な紋様が浮かび上がる。


 アギトが何かをしている事とは関係無く、再びゴーレムは瓦礫を飛ばす。


<シュ>

 アギトは飛んできた瓦礫にワザと向かっていく。

それを真っ二つに切り裂いた。


<ドォン>

 破裂音が2つ響く。


「攻撃に対応できても、まだ足りないな…」


 アギトが使った『鬼との契約』

 それは最大HPを永久に10%減らすことで、その戦闘において力と速さを倍にする特技。


 永久にHPは減ったままなので、通常プレイでは絶対に使わない特技だ。


 すると攻撃を斬られた事に気づいたゴーレムは複数の瓦礫をアギトに向かって飛ばす。


 先程の出来事が偶然ではないかを試すように…


 確実にアギトを仕留めるために…


「本当にこの世界は初心者に厳しいよな…」

 アギトは余裕そうに笑った。


「もっと力を寄越せ『鬼との契約』。多重発動」

 するとアギトの体全体に赤いアザが浮かび上がった。


アギトの最大HPは7にまで減少した。

 代わりに彼の攻撃力と素早さは現在16倍。


「遅いな…」

 アギトは先程飛ばされた複数の瓦礫を、全て粉々に切り落としてしまう。

 一瞬で全ての瓦礫をみじん切りにしたのだ。


「この世界の全ての物質には耐久値がある。


 耐久値以上の攻撃を受ければ、物は破壊される。」


 本来ならば武器の耐久値を気にして出来ない戦い方。


 けれど耐久値のない武器ならば、強引に物質の耐久値を減らす攻撃による破壊を行いながら戦える。


 避けられる攻撃は避けながら、飛んでくる瓦礫を切り落としてゴーレムに迫った。


 アギトが倒れない事に苛立ちを覚えたのか、ゴーレムは直接巨大な拳をアギトに向けて殴り付けた。


「その攻撃は何回も見てきた!」



 アギトは拳が自身に向かって飛んで来たのを、余分に大きく避けた。


 なぜなら


「おまえのその足蹴りが本命だって、知ってんだ。」


 アギトの宣言通り横蹴りがアギト目掛けて迫る。はずだった。


 ゴーレムが想定している位置にアギトはいなかった。


 ゴーレムのパンチによる腕を影にして、ゴーレムの視界から一瞬消えたように見せる。


 ゴーレムはアギトを見失い、キョロキョロと回りを見渡す。


 自身が巨大なせいもありアギトを見失う。


 ふと自身の足を見る。


 が、その頃には遅かった。


「おまえの足蹴りの間に、もう片方の足のHPを削り切れば、お前は転びしばらく戦闘が出来なくなる。」


 16倍になった攻撃力を前に、巨大なゴーレムの足はまるで豆腐のように真っ二つに切られる。


<ドシーン>

 キングゴーレムの巨体が倒れる。

 倒れる際に衝撃波が生じる。


「攻守交代だな?」

 アギトはニコリと笑う。まずはもう片方の足を斬り、立ち上がれなくする。


「ガガがガガ」

 ゴーレムは叫んでいるのだろうか?少なくとも絶望した叫びが聞こえる。


「次は両腕だ!」

 容赦は無かった。自身を容赦なく殺そうとする敵に情けはかけない。


「両目をやっとくか…」

 次は目


「最後は首だ。」


 EXシナリオだからと、ゴーレムがすぐに再生するわけではない。


 完全に倒してから、再度何事も無かったかのように再生を行う。


「攻撃力・素早ささえあれば余裕だったな…」

 アギトは一息ついた。


 ゴーレム種は本来は攻撃と共に武器の耐久値を削る厄介な相手だ。


 だからアゴンみたいな鈍器で戦うメンバーがいないと苦戦する。


だが特殊武器などで耐久値を気にしなければ、力のみでごり押しが出来る。


「こりゃ驚いたな…」


 アギト レベル27

 EXスキル

 鬼の力 26



 ゲームとの違いは、キングゴーレムを倒すことで経験値が手に入った事。



「ガガガガガ」

 空中に瓦礫がどんどんと集まってくる。


「へへへ…経験値までいれてくれるなら、ちょうどいいな。」

 アギトは思った。このゴーレムで無限に経験値稼ぎが出来ることに。



「第2ラウンドと行こうか!」

 アギトはムラマサを構えた。


 が、再生したゴーレムは先程の半分くらいの大きさしかなかった。

だが2体に増えていた。

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