第11話 絶対に勝てないループシナリオ

「救援要請に応じて駆けつけた…」

セリムは東門のクロエの要請に応じた。

彼自身は余裕がある為、助けるついでの経験値稼ぎにだ。


しかし彼が駆けつけた時には、地面に横たわり泣いているクロエと真っ二つに斬られているトロール達の死骸のみだった。


その様子を見てセリムはクロエに近づいて行く。

「なんだ…

もうシルヴァンさんが来て、討伐しちゃったのかよ…


本当なら俺が倒したかったのに…」


クロエは無言だった。応える気が無いようだ。


「ったく、リーダーの癖に情けないな!


俺ならもっとうまくやれたぜ!」

そう言いつつも、複数体のトロールは恐らく厳しいと判断する。


内心クロエは頑張ったと思いつつも、憎まれ口を叩いた。


セリムの一言でクロエは更に泣き出してしまった。

そんなクロエを見てセリムは慌ててしまう。


「いやすまなかったよ。


これは流石にシルヴァンさんじゃないと無理だ。」


「セリム君、違うの!」


「違うって何がだ?


今の王都ではシルヴァンさん以外には…」


「やったのはアギト君なの!」


「は?」


 セリムは理解が出来なかった。


「アギト?冗談はよしてくれよ。


トロールを複数体だぞ?


最初の時点でも一番弱かったアイツが出来る訳ないだろ?」


 こんな緊迫した場面で冗談はやめてくれと、セリムは少し苛立っていた。


「本当なの!そして彼は今、私の故郷に向かっている。」



「お前の故郷?訳が分からん。」

 支離滅裂な言動。クロエが完全に混乱しているとセリムは判断した。



「お願い。アギト君の言っていることが本当だとしたら、彼にはあなたの助けが必要になる!


 お願い。これからルイズに行って、彼を助けてあげて?」


 にわかには信じがたい。だが彼女が嘘をついているとは思えない。


「もしもそれが嘘だったら?


 敵の罠だとしたら?」

 セリムは未だにアギトを疑っていた。初日に投獄された犯罪者。


 そしてシルヴァンとの修行でも、犯罪者には耳を貸すなとしっかりと教わった。


「その際は私の命をもって償います。


だからお願いします。」

泣きながらも起き上がり、その後土下座でお願いした。


セリムはそんな彼女を見て迷っていた。


◇◇◇


 アギトは村に急いでいた。あらかじめネズミを使って、村に爆破予告を行った。


 しかしそれでも信じない人間がたくさんいるだろう。


 アギトの目的は脅迫で逃げなかった人間が逃げられる様に、時間を稼ぐこと。


 この先の村で出てくるのは、『キングゴーレム』という、20メートルほどあるゴーレムの王だ。


 さらに心臓は魔王の城にあるということで、その時点では何回も再生する。


つまりはこの時点では勝てない『不死』の魔物である。


 ここからのEXシナリオは、ゲームであればゴーレムを倒しても再生を繰り返し、倒されるまで続くループシナリオだ。


 ボスを倒しても、そのボス戦が永遠に繰り返されるループに陥る。



 つまりどうあがいてもクロエの村は救えないのだ。



 だがそれはゲームの場合だ。

 アギトは牢獄にいる間にずっと考えていた。


 この現実の様なシステムが取り入れられた世界で、倒してもループするボスを倒し続ければどうなるのかを。


 ボス戦が永遠に繰り返されるが、時は流れるのではないか?


 アギトはそう考えた。


 ならば自分が時間を稼ぐことによって、このEXシナリオで死ぬ人間を減らすことが出来るはずだと。


 村人を救いその後負ければ、シナリオ通りに村は滅びて話が進む。


 村が滅びる事が確定事項でも、村人を助ける事は不確定事項のはずだと。



 クロエの未来を変える方法を考えた。


どうバッドエンドを回避するかをずっと考えていた。


 その上で至った結論は、彼女が笑える未来というのは『彼女の故郷の人間が死なない前提』なのではないか?



 彼女はこのイベントが終わってから、笑顔を失い闇落ちする。


 ならば闇落ちさせなければ、彼女を救えるとずっと思っていた。


 ゲームの世界では彼女の闇落ちは確定事項だった。けれど現実はきっと違うはずだと信じたい。



 その為に本来のプレイでは絶対に使わない『妖刀ムラマサ』を、監獄の隠しエリアから拝借した。


 この武器は呪われた武器であるため、一度装備したら浄化しない限り外せない。


 だが攻撃力を999とゲーム上の上限値にまで高め、耐久値も存在しないため壊れることもない。



 一方で通常プレイでは忌避されるほどの最悪のデメリットが多数存在する。


 この武器を装備中は、回復を含めた補助魔法や道具等の効果が全て無効になる。


及びこの武器以外での攻撃の攻撃ができなくなる。


 更に使用者の攻撃と素早さ以外はレベルアップでは上がらなくなる。


 つまりはこの武器をレベル1で装備すれば、HPは10、防御力5のまま成長が止まる。


 スキルポイントもEXスキルである、『鬼の力』に1レベルアップで1ポイント強制的に割り振られ、他に割り振り出来なくなる。


 つまりはこの武器を使う限り、他の職業にクラスチェンジが出来なくなる。


 本来はクリア後の快適な周回要素として存在する武器だ。間違えても最初に使うべきではない武器なのだ。


 縛りプレイでも使う事がなく、RTAでもデメリットが大きく途中でクリア出来なくなる為に、アギト含む上級者も使わない。



それでもアギトは妖刀を使う事を選んだ。

まだ見ぬハッピーエンドの為に…


クロエが幸せなエンディングを迎える為に…



こうして考える間に、アギトは村に着いた。

村を全長20メートル程の巨大なゴーレムが破壊している。


アギトは妖刀を構えた。

(注意すべきは、地面を揺らされて動けなくなる事…


そして村の瓦礫などを当てられない事だ。)


一撃でも攻撃が当たればゲームオーバー…


それでも村の人間を救う為には、ゴーレムと戦い続けなければならない。


まだ彼の知らない未来の為に、アギトはキングゴーレムに向かって行った。

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