第4話 追放

「出来ることが無い。」

 両腕に手錠の様な拘束具をつけられているアギトはひたすら腕時計を見ていた。


それに記されるステータス画面を眺めていた。


 この腕時計は外そうと思っても外せない装備だ。


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アギト・ノアール  


レベル1/99

HP 10/10

MP 5/5


攻撃 5

魔力 5

防御 5

素早 5


スキル

勇猛 0/100

友情 0/100

慈愛 0/100

知識 0/100

誠実 0/100

中二 0/100

希望 0/100

手癖 0/100


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 脱獄する為に壁や床等のオブジェクトの破壊をする事を考えた。


だが特技がなかった。特技を得るにはレベルアップが必須だ。


だがレベルアップ以前に、何も出来ない為に途方に暮れていた。



「はぁ…14日後の魔物襲撃イベントでソロクリアして経験値稼げないじゃん…」

 アギトはステータスを眺めて溜め息をついた。


 14日後の魔物襲撃イベントはプレイヤーが必ず躓くシナリオ…


つまり序盤、最難関の山場だ。ネットでもここで諦めたプレイヤーの声は多い。


 最低クリア可能レベルは10。


ただしこれは勇者候補を全員王都に集められたらの場合だ。

だが他の勇者候補に戦わせる為に、経験値は得られずクリアしても、その後詰む。


 本来の推奨レベルは20以上。ただしこれでも東西南北の門を守る為に勇者候補が3以上人いたらの場合だ。


 ソロで攻略を行おうとする場合は、更にレベルは35以上必要になる。


 敗北条件は襲撃により王都が半壊、もしくはブロディン王が殺されればゲームオーバー。


 道具屋が破壊された場合は、王都で道具は買えなくなる仕様となっている。

人も死ねば戻らないので、イベントも発生しなくなる。


 クリアするよりも、最低ライン以上の防衛が出来なければその時点でゲームをリセットするしかなくなる。


「はぁ…脱獄してレベル上げしないとなぁ…」

 ゲームをやり込んだアギトでさえ、レベル1ではかなりキツい。



 東西南北に20匹程度の小型魔物との戦闘がある。その後門を破壊する為の大型魔物(ボス)1体との戦闘だ。

 レベルを上げが間に合わない為に、諦めるプレイヤーも沢山いた。


 更に王都が助かろうと、隣のルイズという村は滅ぼされる。

 このイベントは完全勝利という達成感を得られないのだ。


いかに挫折しないかを目指すイベントだ。



「はぁ…どうしよ…これから…」

 アギトはスキルポイントを眺めていた。


 運良くスキルポイントの果実を食べたお陰でスキルポイントが10あるのが唯一の救いだ。


 これによって現段階でスキルを最大2つ取ることが出来る。

 牢屋の天井を見て考え事をするアギトに向かって、看守が話しかけてきた。


「おい…囚人…貴様に客人だ。」


 アギトの表情はパァっと明るくなる。

救済イベントがやって来たと期待した。



 アギトの牢獄の前に2人の人影が現れた。

 その人影を見た瞬間、アギトの表情は一気に暗くなる。


「あぁ…セリムに…アゴンか…どうしたんだ?」


 アギトは聞いてみたが目的は分かっていた。

牢獄に入った自身を笑いに来たことだと。


「ひゃーはっはっは。本当だ。本当にバカが捕まってやがる。」


「ぎゃーはっはっは。おいセリム。笑ってやるなよ。泥棒はやっちゃいけないって、ママから教わらなかった可哀想な野郎だぜ!」

 開口一番にアギトは2人にバカにされる。


「笑いに来たのか?」

 自身を笑う2人に怒りを覚えながらも、冷静に対処する。


「笑いに来たのはついでだ。

王様からの伝言を伝えに来てやったんだ。


ひゃーっはっはっははは。あぁ…笑いすぎて腹痛い。」


「相棒。笑いを堪えろよ。打ち合わせ通りやるぞ!」

 アゴンはセリムの肩を叩く。


 セリムとアゴンは牢屋越しに、一息ついた。そして息を合わせて


「アギト・ノアールくぅぅぅん!


キミはぁ、勇者候補から永久追放でぇぇぇぇす!!!

 もう二度と勇者にもなれませえぇぇぇん!


 王様いわくぅぅぅぅ、キミはぁこのグランディア始まって以来の最大最悪の汚点だそうでぇーす。」


 セリムとアゴンは両手を広げてほっぺたに当てながら、ベロベロバーと舌を出してアギトをバカにした。



ショックだった。泥棒がいけない事は当然分かっていた。


けれどこの高難易度のクエストをみんなで生き残りたかったから、今回の行動を行ったのだ。


守りたかった人間キャラにバカにされる。



 頭が真っ白になり、以降は彼らに何を言われたかアギトは覚えていなかった。


 大好きだったこの世界が大嫌いになりそうになっていた。


(自分が悪いことくらい分かっている。本当に分かっている。)


 2人が帰った後、アギトは両目を右腕で塞いで泣いていた

 手錠で繋がれている分、腕が重たかった。


(大好きな世界だったからこそ、ゲーム世界以上に素早く効率的に平和にしたかった。


 大好きな世界だったからこそ、仲間全員誰も死なせず、みんなで生き残って平和な世界を作っていきたかった。)


 しかしそれも不可能になってしまった。


「レベル1じゃ、守りたい人だって守ることが出来ない…」


 アギトはこの魔物襲撃イベントの後の敵の事を思い出す。


 魔物襲撃イベントでこの監獄の人間の多くはこの場からいなくなる。魔物にさらわれるのだ。


 それは人間を魔物に改造する為の誘拐。


 魔物にされたこの監獄の人間達が、次の章から現れる。



「このままじゃ…俺は大好きなアイツらの敵になってしまう…」


 セリムとアゴンは苦手だ。だがキャラとして愛着はある。

 だから嫌いでも敵になりたくはなかった。


 この世界で新しいストーリーに期待した。


けれども大好きな人間と敵対する物語なんて望んでいない。

アギトにとってはバッドエンド以上に最悪の物語だった。



 泣いているアギトの元に再び看守が現れる。

看守はアギトを気遣う事なく、無遠慮に口を開いた。


「お前に客人だ!」

 看守は溜め息をついた。


「ったく、何で勇者候補の方々がこんな犯罪者の元に来るんだ?」

 看守は憎々しげに愚痴を溢した。


<ガチャ…ガチャ>

 鎧の擦れる音がする。それだけでアギトは誰が訪れたのかを理解する。


「シルヴァンか…」

 仲間思いの真面目なパラディン。きっと彼は励ましてくれる事を知っていた。


本来仲間だったならば…


「アギト・ノアール!」

 アギトの牢屋の前に立ち、シルヴァンはアギトの名前を呼ぶ。

怒りの籠った彼の声。


(そうか…このルートでは彼さえ敵か…)


「ごめんよシルヴァン…昨日は時計台に行けなくてさ…」

アギトの声は悲しみのあまり震えていた。


 もの凄い申し訳無さそうに、アギトはシルヴァンに謝る。


今にも泣き出しそうな位。

悲しみを堪えた姿だった。


でも憧れの存在の前では、情けない姿は見せたく無かった。


 シルヴァンはそんなアギトの姿を見て動揺した。


 この場にくる直前まで、彼はアギトが王に仇なすために経歴を詐称していた大犯罪者だと仮説を立てていたからだ。


 その仮定が一瞬で崩れ去る程の、

今にも泣き出しそうな、年相応の心の弱い青年の姿がそこにはあった。


 シルヴァンは迷う。本当はこの場で彼を攻め立てるつもりだった。

 けれどもどうして良いか分からなかった。


 だからこそシルヴァンは、大きく息を吸った。

アギトの真意を見極める為に…


「アァァァァァギィィィィィィトォォォォォォ!ノァァァァァルゥゥゥゥゥ!」


監獄中に響く大きな声。彼自身も何故叫んだかは分からない。


けれど彼が悪人か分からない今、何故か今この行動が正しい気がしていた。


 アギトはそんなシルヴァンの姿を見て、安心して涙を溢した。


(本当にシルヴァンらしい…ここに来てくれただけで、俺は嬉しいよ。)


「俺を怒ってくれて、ありがとう…」


アギトはシルヴァンに礼を言う。

このアギトの姿を見て、シルヴァンはアギトは完全に悪人では無い事を理解した。

でも彼を完全に信じて良いのか不安だった。


「アギト・ノアール…はな…」

シルヴァンが今回の事を聞こうとした時だった。


「シルヴァン!うるさい」

 シルヴァンの大きな鎧の影から、ひょこっと可憐な少女が姿を表す。



(あぁ…俺はこの子だけには格好悪いところを見られたく無かったな…)


「クロエ・ブランド…キミもここに来たんだね…」

 シルヴァンの姿を見て流した涙が、一瞬で引いた。


 惨めな姿でアギトが一番会いたくない人間が、彼に会いに来ていた。な

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