第5話、犬追物

『カンカンカンカンカンカンカンカン』

視界は一面緑色。ヘルメットの外からは物理的な衝撃すらありそうな爆音があたりに響き渡っている。騒音公害で鳥が飛び立った。


『随分とまあ、レトロな』

『どうでもいいが、しかし困ったね』


彼らは森の中に逃げ込んでいる。50km平米ぐらいだから然程広くもない。元々の計画だと、この森は焼き払っておく予定だった。


『お前さんが甘いから』

『あの地域の神様が住んでいる鎮守の杜だと聞いたら燃やせないよ。僕らはマザーコンピュータの指示に従って「解決する」んじゃなくて、住民に「安心」を与えるヒーローじゃないと』

『へー、へー。まあ、もったいないからいいけどよ。あいつらが燃やしかねないだろ』

『うん。だから、とりあえず彼らはこの星から出て行ってもらう。まずは彼らを奥のアジトまで逃さずに追い込もう。Hi,Rick!』

『はい。聞こえています。すでに部隊長には伝達済みです』

『さすがだね。ありがとう』


反重力バイクの宙を浮いてるアブミを強く踏む。

ヘルメットの内部には立体視された周囲が浮かびさらに動きをどうすればいいか指示が視覚情報で知らせてくる。さあ、250km/hで美しく青空と森林のステージで踊り出そう。


ヘルメット内で目線だけ動かせば、視覚情報とリンクしているバイクが指示を受けたとして傾いていく。だけど、これではちょっと遅いかな。


相手のマーカーまであと5秒。だけど、身体を推奨挙動より傾けて曲がっていく。ニーグリップさえしっかりしていれば、ほら、予定より2秒早い。


『パシュ』


右ハンドルを手前に回して、フロントノーズから高圧水弾を打つ。逃さずに、当てずに。誘導する。発射の反動を利用してバイクを起こす。


この星は水素が豊富だから地上だと水弾が1番周辺環境に影響がないし、弾数は無限だ。経費がかからないって大切。


『おっと』

『あぶねーな!このバイクは剥き出しだって忘れるなよ』


バンク角多めで体重移動したあとに相手からの反撃で体勢を崩す。足元に物理シールドが差し込まれたのを膝で受けてバイクを起こす。


『助かった』

『お互いにな。もう10分もすれば予定地点まで全部追い込めるだろ』

『はい。今のところ、敵味方ともに負傷なしです。敵は応戦ではなく撤退を優先しています』

『それはありがたいね。負傷者がいると手を割かないと行けなくなるから』

『全員逃げるかね?』

『いや、アジトまで行ったら捨て駒が出るだろうから、そちらは睡眠弾かな』

『まあ、屋内までとりあえず追い込むか』

『Sir, yes, sir』


あんまり、その言葉、好きじゃないけど。

とりあえず、この森から、星から追い払うのを優先しようか。

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