回転、静止

腕(kai_な)

 

(バレリーナは議場にて回転を始める。)


部屋の隅の観葉植物の葉の、小径のような葉脈に流れる、栄養となった愛撫の数々。

私はそれらを貧しい舌先でなぞり、確かめる…荒野的な無味と楽園的な感触…の…その(土の香り…に、思考を奪われる…)

「もしも乱心に一生罹患していたいのなら、私を三拍子で刻んでほしい。そして私の細切れをドナウに流して欲しい。」

それは手紙で、しかし洋紙でなくポリエステル製の布で(鉛筆で綴られた文字は掠れている)、署名すらなく、私はその手紙の差出人を知っていた。


(バレリーナは麗しき回転を続ける。前触れなくマホガニーの扉が開かれ、黒い背広を着た端正な紳士が現れる。紳士は議場にたたずむ長机とそこに地蔵のように並ぶ椅子の群れに近づき、その群れの一つに腰掛ける。その端正な顔はバレリーナに向けられている。窓一つない議場には個人墓のような空気がくぐもる。)


部屋の隅の観葉植物の植わる、白く褪せた、鉢。

その深く広い内側にたたえられるだけの風か暴力をたたえて、無理に飲み干したのなら、私の体には翼と、それを充分に稼働させることができるほどの筋肉が備わるだろう。

だから、私は私が荒野と楽園の狭間を飛行し、叙情と余暇のパサージュを目指してひたすらに南へと向かう奇跡を議場の壁に空目する(土の香り…に、思考を奪われる…)

私は返信を書く。

「いつまでも拍子が刻めるから、土葬か火葬が良いです。」

しかし、それはただの誤魔化しだとわかっていた。いずれ悪性の海洋散骨が誠実を蝕むであろうことはわかっていた。

それでもなお誤魔化す我々は、皆等しく、白く褪せた鉢なのだろうか。

であるならば、バレリーナの回転が意味するのは、徹底的な孤独なのだろうか。


(黒い背広の端正な紳士は立ち上がり、罪状のように回転するバレリーナの腕を掴む。回転は絶え、議場は意味を失う。その代わりに、端正な紳士の端正な指先がバレリーナの細き首に絡みつく。バレリーナは何もせず裏切りの天井を見ている。大きな暗い海が議場の窓からこちらを見ている。)

(土の香り…に、思考を奪われる…)

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回転、静止 腕(kai_な) @kimenjou0420

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