#2
全てが終わった今だからこそ思うけれど、スタートとしてはあまり良くない出会いだった。
私がいじめられていて、こうして出会ったからこそ話すようになったというのは事実だけれど、それでもあんまりな出会い方だ。不憫な少女と優しい少年、或いはその逆。青春小説や純愛小説のメインキャラ構成としてはメジャーなものだと思うけど、実際問題、自分で言うのもなんだけれどそんな綺麗なものでもない。
悲観的というかなんというか、暗めな主人公が散々似た見解を述べていそうだけど、まあこれだけで救われるかと言われればノーだろう。たまたま出会ったというだけに過ぎないのだから。
後に彼は言ったのだが、あの時声をかけるべきかどうか迷ったらしい。そりゃあそうだという感じだ。なにせ、見るからにいじめられていますよという子にわざわざ関わるなんて、後でどうなるか分かったもんじゃない。いじめっ子が見ているわけがないけれど、心理的ハードルはひとしおだろう。私なら少し考えてから無視しただろうなと思う。それが良いことかは兎も角として。
私が所謂いじめられっ子という立場になってしまった理由は、はっきり言ってひどくくだらないものだった。少なくとも私にとっては、だけど。
端的に言えば、嫉妬が理由だった。私が一部女子の中で支持を集める男子に告白されたという、喜んで良いのかよくわからない出来事があって、私がそこで断るという選択をしたこと。どうやらそれが、その一部女子の中のさらに一部の気に障ったらしい。私は恋愛する気が無かったから、その男子が偶像崇拝の対象になっているだなんて全く知らなかったのだけど。
「えっと……なんつうか、単刀直入に!付き合ってくれませんか?」
私はその男子に、そんなシンプルなフレーズで、人生初の告白をされた。
「……え?やっ、えっと……ごめんなさい。私、君と全然関わったことないし……付き合うとか考えてないから!」
そんなシンプルな告白に、私は面白みのないシンプルな返事をした。数瞬フリーズして、理解しようとして、中学でこんなことあるんだという逃避的な思考の末に出て来たのがこれだった。
どちらかと言えば陰キャと呼ばれる部類の人間だから正直かなり焦ったし、なんで私がという感じでもある。もっとましな返答をしたかった。
「……そっか。ま、そうだよな。ごめ、俺も早まった」
彼はそう言って、素直に引いた。なんだか、別に悪いことはしていないのにものすごく罪悪感を覚えた。
彼が去ってからもしばらくそこで固まっていた私は、それから小さくため息を吐いて、「帰るか」なんて呟いてその場を後にした。誰かが近くに居たことには気づいていたけど、その時はあまり気にしていなかった。気にする余裕が無かったと言うべきか。まあ、何かわかっていても、手遅れでしかないだろうけど。
翌日私が教室に入ると、数少ない友人が早速私が告白されたという事実を確認しに来た。いきなりで戸惑った私は、曖昧に「ぅ、うん……」と、苦笑いしながら答えた。これが、地獄の始まりを告げるゴングとなった。
誰にも言ってないのに伝わったのは、まあ普通に聞かれていたということだろう。彼がその友人に報告したという線も無くはないけど、主に広まってるのは女子だから違う気がする。とは言え広まるのがはやすぎるが。女子の拡散力の怖さを思い知った。
それはそれとして、どうやらその告白してきた男子というのがここまで噂になった原因ということらしい。客観的に評価をするのなら、その男子の『いい人度』は高いと思う。顔も悪くないし、性格もぱっと見良さげ。それは昨日の台詞からもなんとなくそう思える。この意見は概ね他の女子とも一致するらしく、若干オーバーな表現にはなるけど『憧れの高スペック男子』とやらを振ったということになる。そりゃ盛り上がるかという感じだ。
その時、クラスの女子たちは三つに分かれていた。恋バナで盛り上がるグループと、我関せずという感じな、私に似た感性の、失礼承知で言えば所謂陰キャというグループ。そして、嫉妬に燃える、めんどくさそうな性格してそうな女子たちだ。
末恐ろしい話だけど、その中に居たのだ。普通ではあり得ない行動をしてしまう女子が。ストッパーが狂った人間ほど恐ろしいものは無いかもしれない。だって、自身の行いを無理矢理正当化させて襲ってくるのだから。
放課後、私はその『めんどくさい性格してる女子』に屋上に呼び出された。うっわぁと思いながらも、無視するのは気が引けるし確実にまずい方向に進むので嫌な予感を感じてはいたけど屋上に向かった。
ドアを開ければ綺麗な空、の下にすごく機嫌が悪そうな二人の女子生徒がいた。思わず「めっちゃ不機嫌じゃん」と呟くほどに空気が悪かった。
私の発言が聞こえたのかはさておき、一人が肩をそびやかせながら歩み寄って来て、割と強めに私の肩を押した。よろけた私は盛大にドアに頭をぶつけた。
「えちょっ……いっ!?」
「っどうしてッ!告白断ったの!」
私は後頭部をさすりながらそれに答えようとした。
「なんでってそりゃ――」
けれど、私が言い切るより先に次の言葉が飛んできた。話聞けよと思った。
「なんでッお前みたいな暗い奴に……」
そこについては全くもって同意見だから八つ当たりは辞めてほしいなと、まだ余裕があった私は思っていた。余裕があると思っていただけかもしれないけれど。
よーいどんで始める、もしくは私が主導権を握れている状態なら口論で負ける気は正直しないけど、今のこの状態は口論にすらならない相手の独擅場だ。言って何かが変わるとは思えない。
「ばっかじゃないの?」
私はぼそっとそう言った。今度はしっかり聞こえたのか勢いよくまた肩を押される。背中に痛みが走った。
恋は盲目と言うけれど、こんなに質が悪いものなの?
人の話も聞けないの?
肩を押すしか能が無いのかお前は。
どうせわかってんでしょこんなことしても意味ないって。
色々な言葉が浮かんでは、言わなくて良いと消えていく。
それから暫く、私は無感動にされるがままになっていた。
――いや、相手と自分に対して、嘲り笑っていたのかもしれなかった。
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