いざ、リベンジへ

 スピカとのパーティ配信が終わった翌日、アイナからユウへ連絡が入った。

 ちょうどライブ配信を開始する直前のタイミングの出来事である。


「もしもしー、キシドです」


「こんばんは。ちょっと緊急の話があるのだけど、大丈夫かい?」


「はい、大丈夫ですよ〜」


 ユウは協会からの連絡ということでスピカの件かと一瞬構えたが、緊急とのことなので既に処分の件の連絡を受けている彼女は関係ないようである。


「昨日は本当に申し訳なかったね。それとは別件なんだけど、北海道で新規にダンジョンが発見されたんだ。その関係で後志支部から連絡があって、どうやら人員が割けないらしいんだよね。それで……もしよければ、ゲートアタックの依頼を受けてもらえないだろうか?」


「マジですか! 依頼を受けるのは大丈夫なんですけど……えと、配信って大丈夫ですか? それとできればソロで……」


 スピカの暴走により昨日のゲートアタックは盛大に消化不良だったため、今回の話には自己承認センサーが強く反応する。

 ソロ希望であるのは、端的に同じ轍を踏まないようにするためだ。あとは見せ場を独占するためでもある。


「配信はもちろん構わないよ。ソロ希望の件も了解したよ。それじゃ、細かい日程は明日連絡させてもらうね。最速で明後日には出発することになるだろうから、準備だけはしておいてくれ」


「わかりました。あっ、それと北海道のどこになるんですかね?」


「ああ。場所は小樽市だよ。後志支部も小樽にあるから、ダンジョン現地までの移動は職員が送迎する予定になっているね」


「なるほど……わかりました! では、明日の連絡待ってますね。よろしくお願いしますー」


「こちらこそ助かるよ。いきなりですまなかったね。よろしく頼んだよ。では、失礼する」


 電話を終えたユウは歓喜していた。場所は違えど不発だったゲートアタックにリベンジできるからだ。

 しかも新規に見つかったダンジョンであるため話題性もあり、自己承認欲求を満たすにはおあつらえ向きだ。

 ただし、ダンジョンランクが明らかに格下の場合は消化不良に終わる可能性もあるが、そんなことは想定していなかった。


「おおーう、気分良くなってきたなぁ〜♪準備は明日の朝から始めるとして……よし、配信しよう」


 ユウは意気揚々とスフィアを起動した。


――待ってたお♡

――大丈夫?

――顔色良さそうで安心

――スピカの件について一言

――やほやほ〜

――何か良いことあったの?


「どうもー。昨日は配信できなくてごめんね。気持ちの整理ができてなかったけど、今はもう大丈夫だよ! っていうのも、またゲートアタックに挑戦することになったんだー」


 今、彼の顔色はすこぶる良いが、これも協会から依頼を受けたおかげである。

 実のところアイナから連絡がくる前までは、ライブ配信前だというのにテンションは微妙な感じであったのだ。


――今回もパーティでやるんか?

――リベンジ! ファイト!

――今回はソロなのかな??

――↑がっつしユウくんタイムか。それならすげえ楽しみ


「うん、ソロの予定だよ。今回は最初から全力で飛ばしていこうかなって。場所は当日に教えるよ〜」


 無論、小樽へ行くということはリア凸防止のため伏せておく。当日、ゲートアタック中は他のアタッカーへの入場制限措置がとられるため、当日に場所を公開することは問題ないのだ。

 また、ゲートアタックが新規ダンジョン関連だとわかっている者は、何となく小樽である可能性を感じているが敢えてコメントをするようなことはしない。

 欲には忠実だが、こういうところはマナーがしっかりしているリスナーたちであった。


――全力ユウくん♡

――ねえねえ、話題変わるけどおっぱい好き?

――↑答えて欲しい♡

――おん? おっぱいすきなん?????

――わたしのおっぱいのこと?♡

――まじで聞きやがった


「ん? おっぱ……胸が好きかって? えぇ……特に好きとか嫌いとかはないかなぁ」


 これは事実であるが、彼の頭をよぎるのはスピカのおっぱい。無理矢理触らされたものではあるが、あの柔らかい感触は悪くなかった。


「……うん。まぁ、そうだねー、普通? ってことで……」


 現代においておっぱい好きの男性は激レアだ。そして、おっぱい好きであることは世間的にヤバヤバ性癖である。

 そんなおっぱいが嫌いではない。この時点でユウはヤバヤバ性癖に片足を突っ込んでいると言える。

 もちろん、リスナー的には歓喜事案だ。


――あ♡わたしのおっぱい思い出したの?♡♡

――↑スピカス本人か? なら4ね

――炎上姫の乳には誰も興味ありませんのでお帰りを

――嫌いじゃない……つまり好き!?

――↑好きでもない普通って言うとるがな

――大きいのと小さいのはどっち派??

――貧乳ワイ、ドキドキ


「大きいとか小さいとかは……個性だからどっちでもいいかな? みんな違ってみんな良い的な?」


 いよいよ苦しくなってきているユウは自分でも意味のわからないことを口走る。

 彼は童貞であるし、そもそも女性のおっぱい経験など、物心つく前のママおっぱいと昨日のスピカおっぱいくらいだ。

 好き嫌いを判断する以前の問題である。ただ、少なくともスピカおっぱいがトラウマになっていないことは間違いない。


――懐の広さよ♡

――門戸が広いことは素晴らしいことなり

――全てのおっぱいが良いと!?

――自分の胸に自信が持てました!

――おっぱいビンタは許してくれますか?

――↑この前それで捕まったやついたな

――トラウマ植え付けようとすんな


「さすがにビンタは嫌かな……てか、ちょっと想像できないかも……」


 さすがのユウもおっぱいビンタは許容できない様子。そもそも想像できるだけのおっぱい経験がない。

 ちなみに母親サチも炎上姫スピカもビンタができるほどの胸はなかったりする。


――質問! なんで今回のゲートアタックはソロなの?


 一つの質問がユウの目に留まる。同じ轍を踏まないためであり、見せ場を独占するためであるが、どちらも素直に言いにくいものであった。

 特に後者は自己承認欲求に振り切った理由であり、大っぴらにするには少々恥ずかしい。

 では、前者は? となるが、シンプルにスピカへのトドメになりかねないのでこれも口に出しにくいのだ。


「あぁ、ソロの理由? 急な案件だったっていうのと、今の自分の腕試しがしたいってところかなー」


 嘘はついていない。ガチガチの本心は伏せているが、それっぽい理由を並べていく。

 しかし、やはり察しの良いリスナーはいるようで。


――スピカ、これがお前の罪の一つだぞ

――大半は炎上姫のせいやろな

――ユウくんの優しさに感謝しろよ

――スピカスへのトドメで草

――気を遣わせて恥ずかしくないの?


「ちょちょ! スピカさんは関係ないよ〜! あんまり変なコメントはしないでね!」


――さすが♡わたしの未来の旦那様♡す♡き♡♡♡


 この一言で配信上でのスピカ叩きがピタッと止まるあたりリスナーはよく訓練されている。

 言うまでもないが、掲示板やHではしっかり現在進行形で炎上している。


「そんなわけで、今回はソロにしたんだ〜」


 実際問題、今回の件で協会の抽選による臨時パーティが組まれることはない。そもそもランク不明のダンジョンへのアタックとなるため、『誰でもどうぞ』とはならないのだ。

 ユウがパーティを希望しても、相手はAランクに限定され、安全措置の一環とはいえ不満が噴出していただろう。

 協会としても彼のソロ希望には助けられていたのである。


 その後もこんな調子でライブ配信を続け、キリの良いところで配信を終えた。

 程よく自己承認欲求も満たされ、次はゲートアタックの配信である。


 翌日、予定通り協会から連絡がくる。


「――ということで、出発は明日の午前中になるけど大丈夫かい?」


「問題ないですよ〜!」


「わかった。さっき説明した行程も送っておくから再確認しておいてくれ」


「わかりました」


 こうしてゲートアタックの日程が確定した。二度目の失敗は許されないため、ユウは改めて気合いを入れ直す。


「うし、少しストレッチしよっかね……あ、忘れ物ないかもう一回確認もするか……」


 この日、彼は修学旅行前日の学生のようなテンションであった。






 同日、夜。小樽市の新規ダンジョン付近にて。


「絶対ココだよね。ボクだけのユウくん……待ってるからぁ♡あとはー、泊まってる場所さえわかれば……んん♡あとはえっちなことするだけだよ♡何日でも待ってるからね……」


 どうしても彼と既成事実を作りたい放尿系ガチ恋ストーカー予備軍は動き始めていた。




―――⭐︎


ここまで読んでいただきありがとうございます。諸事情で更新が滞っており申し訳ありません。


いつの間にか30万PV、3000フォロー、1000星を突破していました。

とても感激しています。皆さま、本当にありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします!


次話からは北海道へレッツゴーします♡


―――⭐︎

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貞操観念逆転世界の異端者、配信を始める ぽぽろん @popoLON2114

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