炎上姫②
“当選者:スピカ”
「『予定調和』か。ふざけたアーティファクトだな……ニュージーランドは今からでも返還命令を出せばいいものを……くそッ!」
翌日、予定された抽選結果にアイナは毒を吐く。ちなみに、彼女は当然のようにスピカを抽選対象から外していた。
協会の不正はスピカの不正に押し負けてしまったということだ。苛立ちながらもルールはルール。アイナはスピカへすぐに連絡をした。
「おはよ、アイナちゃん。わたしに決まったかな〜?」
「おはよう。そうだね、決まったよ。それより、どうして抽選対象外にした君に決まったんだろうね? 私は目を疑ったよ」
「えー? アイナちゃん、それはダメだよ〜。不正めっ、ですよ〜♡」
「……(この馬鹿のライセンス剥奪してやろうか? 協会への挑戦だよなぁ? 稟議書作るか。そうだな、作ろう)」
スピカの煽り性能は非常に高い。基本的に冷静なアイナを怒りで乱すほどに。決してアイナが短腹であるわけではない。
「ちょっと、怖いから黙らないでよ! それで、ユウくんには連絡した? わたしは今日でも明日でもいいから! ダンジョンもどこでもいいよ〜」
「これから連絡するよ。ユウには一応拒否することを勧めるけどな」
「ははん♡あのねぇ、予定されてるの♡♡」
「あ゛!? ああ、はぁぁ……はぁ。日程は確認して連絡するよ。それじゃ、またあとでね」
アイナは電話を無意識にガチャ切りする。周囲の職員がビクッとなっているが、スピカ関連であることはわかりきっているため、心の中で合掌する。
さて、次はユウへの連絡だ。
「もしもし、キシドです」
「おはよう。今大丈夫かい? 臨時パーティの件だったんだけど」
「大丈夫ですよ」
「すでに噂は聞いているかもしれないけど、相手はスピカに決まったよ。炎上姫だね……」
「え゛……あ、はいっ。それで日程とかはまた俺のほうで決めちゃっていいんですか?」
一瞬だがユウは動揺した。アーティファクト『予定調和』のことを知らないため、背筋がゾクっとする。
「そうだね。お願いするよ。決まったら私に電話をもらってもいいかい?」
「わかりました! お昼前には連絡をしたいと思います」
「負担をかけて申し訳ないね。よろしく頼むよ……あ、それと念のため、スピカはAランクアタッカーだからね」
「はーい。オッケーです。それじゃ、失礼します(アイナさん、やけに疲れた声してるなぁ。珍しい……)」
通話後、早速ユウは予定を考える。それにしても、昨日の配信でずっと話題になっていた炎上姫が相手に決まったには衝撃を受けた。
別件で、朝一で母親であるサチからのメッセージで『スピカは危険、逃げて』と送られてきていたことにも改めて背筋が凍りつく。
「……え? これ、どういう状況なの?」
とりあえずサチへは『大丈夫』とふわっとした返事をしておいた。
「たまたま、だよねぇ……うん、それよりダンジョンどこにしようか……」
スピカがAランクアタッカーである以上、ユウの選択肢はAランクダンジョンに絞られていた。
前と同じように未探索領域の調査とゲート処理の組み合わせが安牌だと考えているが、これで相手が納得するのか悩ましいところ。
スピカは常々炎上していても海外でかなり実績のあるアタッカーだからだ。
「正直、調査って退屈させちゃいそうだよな……」
スピカに関しては、先日のエレナのように『経験を積む』段階ではない。
「それならゲートアタックもアリかぁ……」
ゲートアタックとは、未探索領域の調査をほぼスルーしてとにかくゲート処理だけこなしていく、というもの。
主に新規発見されたダンジョンで実施されることが多い。これによって暫定ダンジョンランクが決まり、その後の詳細な調査でダンジョンランクが確定する。
「てか、発見されたばかりのダンジョンってこの辺にないんだよな」
ユウは近隣のダンジョン情報をきちんと収集しているため、すぐに悲しい現実にぶつかってしまう。
全国を探せば目的に適うダンジョンはあるだろうが、移動範囲はなるべく近隣にとどめたいという気持ちもあるのだ。
「どうしたものかなぁ……あッ、いや、あるじゃん! 怪しいダンジョン。浅草B7ッ!」
浅草B7ダンジョンはリサ(匂いフェチ)と出会ったダンジョンである。
Aランクに格付けされているマンティコアが現れたダンジョンでもあり、現在はAランクアタッカーのみの入場制限がかけられている。
「あそこは実質ダンジョンランクがあやふやになってるからなー。ゲートアタックにちょうどいいかも!」
ゲート処理が中心になる以上、ライブ配信での見せ場も多いだろうし、情報が増えれば協会も助かる。まさに誰もが幸せになれる選択であった。
すぐに彼はアイナへ連絡を入れる。
「決まったのかい?」
「はい。明日、浅草B7でゲートアタックをしようかなと。相方もAランクですし都合が良かったので」
「なるほどな! それは助かる。であれば明日はこちらでの調査を休止してキシド君に任せるよ。スピカには私から連絡をしておくね。それと、集合時間はどうする?」
「朝から動きたいので、八時集合で伝えていただけますか?」
「了解した。なんだか少し胃の痛みが和らいだ気がするよ。ありがとうね」
「は、はい。良かったです。では、よろしくお願いします(やっぱり不調だったのか。協会職員ってストレス溜まりそうだもんなぁ……)」
こうしてスピカとのパーティ活動は浅草B7ダンジョンでのゲートアタックで確定した。集合時間は明日午前八時。
久々の戦闘特化ダンジョンアタックとなるため、ユウはワクワクしている。見せ場のオンパレードになることを祈りながら。
「よーし、刀の手入れしないと! 今日の配信はお休みするか……」
その一方、スピカはちょっぴり凹んでいた。彼女の理想はデート的なゆるいダンジョンアタックだったからだ。
どうやらパーティ活動の内容は『予定調和』の効果範囲外であったらしい。
「ゲートアタックかぁ……しかもガチガチなやつ……それにしてもアイナちゃん、嬉しそうだったなぁ……むぅ〜」
そう、アイナは色々な意味で歓喜していた。おおよそスピカがゆるい活動を求めていることを察していたため、ユウの提案には声を上げそうになったほどだ。
ガチのゲートアタックで協会は助かる、そしてスピカは予定が狂う。このことを伝えた後のアイナの表情はとても明るかったとか。
「てか、わたしついていけるのかな……」
予定が狂ったことはさておき、スピカが抱える不安。それは、ユウについていけるか、ということ。
能力測定アーティファクトによる測定値はユウが575であり、これは協会所属のアタッカーに公開されている。
対して、彼女の測定値は468だ。かなり測定値に開きがあることが不安要素となっていた。
「もう! 575って何なの……サチ先輩より高いじゃん。はぁ、わたしが色々合わせてもらうっていうのは気が引けるんだよね〜」
炎上姫とはいえ、スピカはAランクアタッカー。海外での実績もあり、プライドだってある。
「ライブ配信は見たけど、そこまでって感じはしなかったのになぁ。どういうことなんだろ……」
スピカがおふざけなしに本気で悩んでいる姿はレアだ。
「悩んでても解決しないっ! 何にせよ準備はしっかりしないと、だね」
彼女は気持ちを切り替え、相棒である魔銃の手入れを始める。リボルバーのような見た目のこの武器、実はアーティファクトである。
装填の必要がない無限弾リボルバーとイメージしてもらうとわかりやすい。シンプルにイカれた武器である。
そうして訪れるゲートアタック当日。二人ともほぼ同じタイミングで浅草B7ダンジョンに到着した。
「おはようございます。スピカさん、はじめまして」
「おはよっ! ユウくん、今日はよろしくね♡(あっ♡♡サチ先輩、じゃなくてお義母さん、ユウくんは貰います……)」
スピカは無事お悩みモードを脱却している。そして、顔面どストライクのユウを生で見て、婿にすることを決めた。
「よろしくお願いします。いきなりですけど、今日の予定から確認しますね〜」
「うん♡」
いよいよAランクアタッカーパーティによるガチのゲートアタックが始まる。
炎上姫は炎上することなく今日を乗り切れるのだろうか。
―――⭐︎
HENTAI要素少なくて辛いです。
それもやっと終わりを迎えられそう。
炎上姫、あとは頼みますよ。
―――⭐︎
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