初パーティ配信②(+設定あとがき有)
ちょっとだけ長めかもです。
お付き合いください。
―――⭐︎
「はぁぁあッ!」
エレナは自分の身長よりも長い薙刀を、自身の体の一部のように扱っている。
身のこなしも悪くなく、きっちり洗練されていることには、ユウやリスナーも感心していた。
さらには道中から比較的ハイペースで魔物が湧いてきているが、息を切らすことなく戦闘を続ける体力もさすがBランクアタッカーといえるだろう。
ちなみに、リスナーからはすでにエレナがBランクであると特定されていた。
――本当にこのレベルでBランクなのか?
――実力はあっても実績がどうなのだろうね。基本的にランクは実績主義だから
――AとBにはえげつない壁があるとか言われてるもんな〜
――私からすればCランクでもすげーのに
――気になるやつは協会HPみてこい。わけわからないくらい詳しく説明されてるぞ笑
「(このペースならよほど迷路みたいじゃなければゲートまでは余裕かな〜。頼むぞ……)」
ユウの願いが通じたのか、未探索領域はそこまで複雑な構造ではなかった。さらに、出てくる魔物も新種は見受けられず、スムーズに進むことができている。
「あの、ユウくん?」
「どうしました? 少し休みますか?」
「あ、いえ、休まなくてもまだまだいけます! マッピングって普段一人でやってると大変なんですか?(ホントは声が聞きたかっただけっ♡キュンキュンするよぉ♡)」
「あぁ。一人だと魔物も対応しながらだからそれなりに神経は使いますね。でも今日はエレナさんがいるのでとても楽ですよ」
「そ、そうですか! お役に立ててるなら嬉しいです!(耳元でそれ囁いてぇ♡ボクが役に立ってるって♡また崩れ落ちちゃうと思うけど♡)」
――未探索領域の調査に同行すればユウくんの助けになれるらしいぞ
――↑まともな精神状態を保てればな
――その点においてエレナは頑張ってると思うよ。妬ましいけどね
――たしかに基本ちゃんと役目果たしてるっぽいしな。妬ましいけども
――嫉妬は見苦しいぞ。妬ましいがな
――ママ、おかしくなりそう怒怒怒
その後も相変わらず二人の道中に問題はなく、いつの間にかゲート前に辿り着いていた。まだ昼前であるため、かなり良いペースである。
「……わぁ、こんな大きいBランクダンジョンのゲート、初めて見ました」
「あ、あぁ。これ、どうしたものかな……」
エレナは感心している一方で、ユウは嫌な予感がしていた。ついこの前、八王子A1ダンジョンで処理したゲートと近しい匂いがしたからだ。これは直感である。
――でッッッッけーーー
――この前のAランクダンジョンのときと同じくらい???
――嫌な予感がしますねぇ
――ユウくん困惑中。かわいい♡
――撤退?
――無理はしないでほしいのよ
「エレナさん、ちょっとこのゲート嫌な予感するんですけど、ここで待ってますか?」
「あう……ボク、ランク昇格のとき以来ゲート処理って関わったことなくて、できればついていきたいです」
「ふむふむ……経験は大切ですからね。わかりました。危険と判断したら即時撤退ということで、行きましょうか」
「は、はいっ!」
ユウ自身に撤退する選択肢はない。これは今回の配信で自己承認欲求を満たす唯一の機会だからだ。
問題はエレナである。ユウとしては彼女の安全を優先したいため、ゲート外で待つことを提案したが、本人が入りたいと言うのでその意思を尊重することにした。
彼女に危険が及びそうな場合はすぐに撤退することを条件として二人でゲートへ入ることにする。
「(なるべく撤退は避けたい……Bランクだからさすがにそこまでヤバくないはずなんだけどさぁ)」
――うお! いよいよユウくんのターン!
――でかいゲートとはいえユウくんはAランクだからね。安心して見ていられる
――怪我はしないでくれよ〜
――どきどき
――ハラハラ
「エレナさんは俺の後ろにいてくださいね」
「わかりました」
ゲートの中はかなり広かった。未探索領域の調査を主としているユウでもあまり見ない広さで、それが余計に緊張感を増幅させる。
「……(おいおい、様子見ってか? さっさと出てきてくれよな)」
そして、ゲート内に必ず存在する魔物はまだ姿を現さない。ただ、視線は感じるため、様子見をされているようである。
「!? エレナさんっ!」
「ふぇ!?」
何かに反応したユウはすぐにエレナを抱きかかえて大きく横へ回避行動をとる。
次の瞬間、二人の立っていた場所にブレス攻撃が飛んできた。直撃していればかなりな痛手になること必至の威力だ。
「ブレスって……本当に遠距離は勘弁してほしいな(これ本当にBランクなのか……最近変なこと多いから怪しいわ)」
「あわわわ、ユウきゅん……♡」
「あぁ、すみません」
抱きかかえたままのエレナをすぐに離す。彼女の崩落閾値寸前のところだった。ここでまた崩れ落ちてしまった場合、ユウは間違いなく頭を抱えるだろう。
「エレナさんは扉前で待機していてください。飛び火だけはしないように気をつけますので」
「は、はひ……」
「じゃあ、まずは……ほれっ!」
ユウはエレナをゲートの扉前に退避させ、すかさず足元の石を魔物が潜んでいると思われる場所へ全力投球した。
当たったかは不明だが、引き摺り出すことには成功しようだ。
「WOOOOOO!!!」
「ブラックウルフ? あれ、こいつAランクじゃない? てかブレス吐くとか知らないよ!?」
幸か不幸か再びイレギュラー候補と鉢合わせてしまう。ブラックウルフはAランクダンジョンで確認されている魔物であり、ブレス攻撃の報告は一切ない。
このことには、さすがのユウも混乱を避けられない。
しかし、ブラックウルフは混乱してるからといって一々待ってなどくれない。再び口元にエネルギーが溜まっていくのを確認したユウは回避準備をする。
「(視線は俺だからエレナさんは眼中にないみたいだ。ブレス吐こうが所詮ブラックウルフはブラックウルフだろうし、さっさと終わらせよう)」
「WOOO!!!」
「直線的すぎて当たる気がしないわ。ほれっ!」
破壊力抜群のブレスを難なく回避し、ユウは即座にブラックウルフとの距離を詰める。
一撃で屠るために首を落としにかかるが、間一髪でブラックウルフは彼の一振りを避けた。
「反応速度もおかしいな。普段ならこれで首落ちてるのに……えぇ、イレギュラー?」
――ユウくんはやべえの引き寄せるのか?
――たしかに女も魔物もやべえのばっかやね
――わたしBランクだけどこの黒狼には勝てる気がしませんわ
――念のため。ブラックウルフはAランクダンジョンの魔物です
――↑マ? まーたイレギュラー?
――えぇ……この奥にこいつまた出てくる可能性あるのよな?
――ダンジョンランクの格上げかなー
――↑可能性大な希ガス
「WO!」
「マジかよ! くそッ(ブレス!? 間に合わねえ!!!)」
ブラックウルフは待機しているエレナに一瞬視線を向けた。彼女は気付いていないようだが、ユウはその一瞬を敏感に察知する。
力強く地面を踏み込み、すぐにエレナのカバーへ回った。もちろん、彼女は状況への理解が追いついていない。
「WOOOOO!!!!!」
「う゛ッ……痛ぇ……ッ! え、エレナさん、大丈夫?」
「え、ぁ、ゆ、ユウ、くん?」
ユウの予測通り、ブラックウルフは待機しているエレナを狙ってブレスを吐いた。しかし、回避行動が間に合わず、背中でモロに受け止めることになってしまったのだ。
一瞬間を空けて、エレナは現状を理解する。自分のせいでユウが深手を負ってしまったこと。
そして、ユウに抱きしめられる形になっており、彼の声が脳へダイレクトアタックを決めていること。
「あ、あ、ご、ごめん、な、さい……ユウ、くん……」
再び彼女は腰が抜けてしまった。恐怖感からではない。ユウの声によってだ。自分のことを心配する声、彼が痛みを堪える声。
「んや……大丈夫なので気にしないでください……さっさとあの馬鹿タレをぶち殺してきますねッ!」
「はひ……(あ、あぁ……おしっこ、でたぁ♡ユウくん、気付かないでぇ……ごめん、なさい♡こんな、ときなのに、ボク、らめぇ♡恥ずかしいよぉ♡)」
エレナは漏らしていた。股が色々な液体で残念なことになっている今の彼女は、思考が壊れていた。
「(はわぁ♡おなにぃ、したいよぉ♡)」
「(エレナさんは今もう動けなさそうだから次で確実に殺さないとな……)」
この狂いきった心の声がユウに聞こえていればぶっ叩かれているかもしれない。
聞こえないおかげで二人のすれ違いは絶妙に収まるところに収まっていた。
そんなユウの背中はブレスによって爛れており、かなり出血もしている。
――ひえッ
――ちょ、流血……
――血液フェチがアップを始めました
――↑自重せよ
――本気でやばくね?
――エレナを守るユウくんやばすぎ。クソイケメンムーヴゥ
――これは惚れるわぁ……
――ユウくん痛覚いきてる? 普通に動けてるとか怖い
――↑てかノーダメのエレナがダウンしてるわ……腰も抜けるか……
――↑たぶん、ユウくんの声。あとでアーカイブよく見直してみな。わかるよ
プロリスナーはたしかに存在していた。
「(こいつ相手に居合は無理だな。なら……)」
一方的にやられたままというわけにはいかない。ここは見せ場なのだ。自己承認欲求を満たすべく彼は刀を再び構える。
漫画『僕の考えた最強サムライ』に出てくるユウのお気に入りの技の一つ――
「朧月・キリガクレ」
――こ れ は !!!
――『僕の考えた最強サムライ』
――やまざきくんの必殺技やんけ
――↑ちゃんと読んでて草
ユウが愛刀を一振りした瞬間、配信画面からもブラックウルフの目の前からも、彼は姿を消した。
「WO?」
「お疲れ様。亡骸は協会に持って帰るからな(背中痛いけど、これ最高の流れでは!?)」
音も立てず、ユウはブラックウルフの隣へ移動していた。そして同時に呆気なくブラックウルフの首が飛ぶ。
「ふぅー……(決まったァアアア!!! けど、背中いってええええええ!!!)」
――これがAランクやねん……
――最初からそれ使えし!!!
――↑流れってものがあるんすよ
――かっけえええええええええ
――再現率100%は草
――どういう身体構造してるん……
――これを見にきた
――ほんと震えるわ
「ふぇぇ……(やば♡ユウくん、かっこよすぎ♡追いションでちゃった♡)」
さすがに背中の痛みが一気に押し寄せてきたが、ユウはすぐにお漏らしエレナの元へ向かう。
「エレナさん、あいつの死骸引っ張れます? ちょっと背中がキツくて……」
「は、はい! 任せてください! 少々お待ちを!(みゃあ♡お股がやばいのぉ♡)」
エレナは黒系の服装をしていたため、追いションも気付かれることなくやり過ごすことができた。
彼女がブラックウルフの死骸をまとめている間、ユウはチラッと配信のコメントを流し見し、その盛り上がりにホクホクする。
同時接続207632。
「(にじゅ、二十万!? やったぜ!!)」
同接数とコメントの盛り上がりで一気に自己承認欲求が満たされていくユウ。再びアドレナリンが噴出したのか背中の激痛すら一時的に忘れてしまったほどだ。
「ユウくん、準備できました。その、本当にありがとうございます。怪我までさせてしまって……すみません……」
「いいんですよ、気にしなくて。何事も経験ですからね。さて、帰りましょうか」
「はぅぅ……はひ……(優しい声……しゅき♡)」
エレナは正気に戻った途端、一気に湧き出てくる罪悪感に押し潰されそうになったが、ここは優男ユウの慰めにより落ち着きを取り戻す。
ユウとしては怪我も含めた討伐の流れでここまで盛り上がったと思っているので、本当に気にすることはないと考えている。
無事(?)にゲート処理を終えた二人はそそくさと撤退を始めた。
―――⭐︎
余談(内部設定的なものです。読み飛ばしていただいてもあまり影響ありません!)
ダンジョンアタッカーライセンスは『完全実績主義』です。
この実績については協会が定義しており、現在はいくつかの項目に分けられています。
今回はBランクアタッカーがAランクへ昇格するための実績条件を挙げてみます。
どの条件も厳しいものであるため、AランクとBランクにはえげつない壁があると言われています。
①Aランクアタッカー帯同の元、Aランクダンジョンにおける未処理ゲートを“5”以上単独で処理すること(特例入場)
②Bランクダンジョンの未処理ゲートを“20”以上処理すること(パーティ可)
③Aランクアタッカーとの模擬試合で勝利または引き分け、もしくは15分以上持ち堪えること(八百長が認められた場合は両者ライセンス永久剥奪)
④能力測定アーティファクトによる測定値が255以上であること(定期測定義務有)
参考までに、現在値(設定)は、
Aユウ…575
Aサチ(リアルママ)…533
Bリサ(匂いフェチ)…201
Aミコ(筋肉フェチ)…318
Bエレナ(声フェチ)…214
となっており、同じAランク(日本では最高ランク)同士でも実力差はかなり大きいです。
測定値は鍛錬によって上昇しますし、サボれば低下することもあります。基準値を下回ると一時的にランク降格処分となることも。
これは日本の取り扱いで、海外では各国が定める基準があるため、日本基準からランク変動が生じる場合があります(例えば、サチはメキシコで日本には存在しないSランク)。
設定上、具体的なレベル、細かなステータスというようなものは考えていません。ですが、細かなステータスは考えても面白いかなと思っており検討中です。
今のところは基本的に努力した分強くなれるし、サボったらその分弱くなる、とご理解ください。
ユウのように漫画に出てくる好きな技を再現しちゃう、といったことは多大な努力の賜物です。もちろん才能も絡んできますが……。
長々とすみません!
今後ともよろしくお願いします。
何か疑問などあれば遠慮なくコメントお願いします!
―――⭐︎
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