初パーティ配信①
パーティでのダンジョンアタック当日。
エレナは集合時刻一時間前に調布B2ダンジョンへ到着していた。
気合いを入れるため、昨日はいつも以上に強度を高めて激しめのナニに励んだからか、肌ツヤの調子も抜群である。
「ユウくん……まだかなぁ……んん〜」
モジモジしている彼女の姿は、最早デートで彼氏を待っているようにしか見えないが、目的はデートではなくダンジョンアタックだ。
そして程なくてユウも到着した。いよいよ彼女にとっての夢の時間が幕を開ける。
「おはようございます。エレナさんですよね?」
「あ、はい! エレナです。今日はよろしくお願いします!(んん〜〜♡生声♡)」
「よろしくお願いします。入る前に一応今日の予定の再確認とかしますね」
「はいっ♡」
今日の予定は未探索領域の調査とゲート処理である。基本的に戦闘はエレナが担当し、ユウはマッピングを行う。
ゲート内の魔物はユウが対応することにしているが、これは配信の見せ場のためである。いくら考えてもこれくらいしか自己承認欲求を満たすシーンは思い描けなかった。
「協会から伝えられてると思いますけど、配信は大丈夫ですよね?」
「はいっ、問題ないです!」
「わかりました。それじゃあ、配信開始しちゃいますね」
彼はスフィアを起動する。事前告知のおかげもあってか、初動の同接数は一瞬で十万近くまで膨らんだ。
――待ってたよぉ♡
――ちょ、だ、誰? その子……
――2日間もユウくんの配信見れなくて死にそうだったお
――あれ、接近禁止令とやらは???
――↑今回のは協会で認められたパーティ活動や……
――この2日でナニが起きてん
――本格的に寝取られ性癖が覚醒してしまいそうだ
――銀髪でお人形さんみたいでかわいい。けど、ユウくんの隣に立つのは許せん
――羨ましすぎて変な声出ちゃったわ
――開幕数十秒で阿鼻叫喚は草
「おはよう。今日はパーティで配信をやってくからね〜。こちら、エレナさん」
「あっ、エレナです。よろしくお願いしますっ!」
リスナーの反応としてはその大半が疑問符を浮かべている様子。協会による『規制緩和』を知らない者からすれば、突然女性が配信に登場することに戸惑うのも無理はない。
ユウは事前にそれを告知することはしなかった。これもまた混乱を招いている原因だろう。
ただ、この点についてはアタッカーと思われるリスナーがすでに答えているため、彼はあまりコメントを気にせずダンジョンへと入場する。
「明らかにヤバい魔物が出たら俺が対処するので、それ以外は予定通りお願いしますね。多分、イレギュラーは出ないと思いますけど」
「はい。きちんと役目を果たします!(心地いいなぁ♡耳元で囁いてくれないかなぁ♡)」
ダンジョン内で現れる魔物はユウの想定通りで、エレナは自身の武器である薙刀を振り回して淡々と処理していく。
彼女はBランクでも上位であるため、平均的なレベルの魔物には苦戦を強いられる様子が全くない。
――エレナ、思ったより戦闘能力あって草
――不必要にユウくんに絡まないのも好感度高めだわ
――↑フラグかな?
――オカズポイントは低めだけど休息日もたまには必要よね
――この子、ユウくんに見られてるってプレッシャーないのか?
――↑別のモノがプッシャーすることはあるかもな
「(うんうん、余裕そうだな。これなら俺も安心してマッピングに専念できそうだ)」
ユウは素直にエレナの戦闘能力に感心していた。とはいえ、一応怪我に繋がらないよう注視はしており、気は抜けない。
「(極楽♡浄土♡ボクはいま最高に気持ちいいよぉ♡)」
その一方でエレナは気が抜けてきていた。魔物はそこまで神経質にならずとも処理できているし、そのせいか意識がユウに傾いてしまっていたのだ。
「WOOOOOO!!!」
「ちょ! エレナさん!」
「にゃ!?」
岩陰から突然飛び出してきたウルフ種の魔物にエレナは反応が遅れる。ユウはすぐに彼女を抱き寄せ、飛び出してきた魔物の首を斬り落とした。
――おっふ、ギルティ
――おっつ、ギルティ
――ぐっは、ギルティ
――はぁん!? わざと? そのまま喰われちまえよ
――死角からだった? ユウくんよく反応したな
――↑ユウくんはAランクだから……
――抱き寄せ見て不整脈なったわ
「大丈夫ですか? 反応遅れてたみたいですけど……」
「はうぁ、ユウ、くん……(距離、ちか、い♡もぉ力入らないよぉ)」
次の瞬間、エレナはペタンと地面に崩れ落ちてしまった。魔物のせいではなく、耳元から聞こえるユウの声のせいだ。
彼に触れられていることや匂いもわかるほどの距離感であることよりも、彼女にとっては『声』が重要であった。
「あれ、ちょっと、エレナさん? 体調悪かったりします?」
「だ、だいじょぶ、れふ……(脳に声がダイレクトアタックぅ♡べちょべちょだよぉ♡もぉだめぇぇえええええ♡)」
――おいおいまじかよ
――協会、こいつあかんぞ
――私の見立てだとユウくんの声にヤられてる
――↑同意。体の挙動みりゃ一発よ
――顔が蕩けてんだよなぁ!?
――ユウくんが声かけるたびにピクンピクンしてんぞ……
――一体我々は何を見せられているのか
――草しか生えない
――筋金入りの声フェチくせーな。だめだ、怒りきれない自分が情けねえ
――↑リスナーみんなそうだよ。羨ましいし妬ましいけど……
まさかの事態にユウは冷や汗が出てくる。彼女は無理をしていたのではないか、と。もちろん配信のコメントを見る余裕などない。
「ごめ、にゃさい……ちょっと、だけ休ませて、ください……(腰に力入らないよぉ……ボク、壊されちゃったよぉ♡責任、とってよぉ♡)」
「わかりました。少し休憩するのはオッケーなんですけど、体調は本当に大丈夫ですか? まだ余裕で引き返せますけど……」
「それ、は! だめです! きちんと、最後までご一緒しましゅ!」
「……そうですか。そしたら十分くらい休みましょう(責任感強い子なんだなぁ……)」
ユウは勘違いから別の意味で感心してしまっていた。
さて、彼の近距離声爆撃により、崩落したエレナは顔が露骨に蕩けている。見方を変えれば体調不良とも言えなくもない。
状況判断でリスナーにはすでに体調不良ではなく、興奮でダウンしていることがバレているが、こういう時に限ってユウはコメントを見ていない。
――股も大変なことになってそう
――↑モジモジしてるの丸見えなのよな〜
――リスナーが誰一人体調不良を疑ってないの大草原
――ユウくんコメント見てないからなぁ
――まじで体調不良かと思って心配してるみたいだからね……
「ふぅぅぅ……(やば、ここで弄ったら……だめだよね……もぉムラムラがやばいのにぃ……)」
その後、特に会話をすることもなく十分ほどが経過した。
エレナは何とか気持ちを抑え込むことに成功したらしく、表情が蕩ける前に戻っている。
「変に迷惑をかけてしまって……すみません、もう大丈夫です!」
「いいですよ。体調が悪くなければ安心です。引き続き魔物処理もいけますか? 無理そうなら俺がやりますけど」
「ボクがやります。もう気を抜いたりはしません」
「オッケーです。それじゃ任せますね。未探索領域まではもう少しなので、早速進みましょう」
再び未探索領域へ向けて進行を開始する。エレナは先ほどの醜態がなかったかのように魔物をスムーズに狩っていた。
これにはユウも再び安堵し、少し気が楽になる。
「あぁ、エレナさん。ちょっとストップ。このあたりから未探索領域になります。俺は基本的にマッピングをするので、このあとも魔物はお願いしますね。対応が厳しいと思ったらすぐに声かけしてください」
「わかりました!」
二人はやっと目的地の一つ目である未探索領域へ到着する。ここから次はマッピングをしながらゲートを目指すということになる。
――あのぉ、ユウくんの勇姿はいつ見れますか?
――多分、ゲート処理のとき。それか道中の魔物でやべーやつ出たときとか?
――怪我だけはしてほしくないわー
――てかここって何ランクなの??
――↑ダンジョン名は言えないけど、Bランクで確定よ
――BランクダンジョンならユウくんはAランクだし余裕余裕
――なんか今日はユウくんに放置プレイされてるみたいで……それはそれで興奮してきた
――↑わかるよ。今日はほとんどコメント見れてないもんね……
「お、この魔石は珍しいな……めもめも。この調子ならまた少しの間は人気が戻るかもなぁ。この奥の魔物次第って感じだけれども……」
「(ここからはボクがユウくんをしっかり守らないと。頑張るぞッ!)」
さて、いよいよ今日の本番が始まった。まずは未探索領域の調査であるが、彼らは無事目的を達成することができるのだろうか。
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